「ヒグマという最強動物の獰猛さと恐ろしさを伝えるために、あえて生々しく描いた」と安島さん(gettyimages)
「ヒグマという最強動物の獰猛さと恐ろしさを伝えるために、あえて生々しく描いた」と安島さん(gettyimages)
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 31歳の独身、女猟師が北海道を舞台にエゾヒグマを追う狩猟漫画『クマ撃ちの女』が人気だ。リアルな狩猟の描写が話題となっている同作品。実際の狩猟現場に同行するなど綿密な取材を得意とする作者の安島薮太(あじま・やぶた)さんに作品への思いを聞いた。さらに、近年、北海道を震撼させている怪物ヒグマ「OSO18(おそじゅうはち)」について、どう見ているのか。

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「クマはナイゾウからタべるってキいたことがある…」
「おネエちゃんもそうやってタべられるんだ… ……ワタシはどうなる…」

 主人公のチアキと姉は、狩猟の帰りに「片耳のヒグマ」に襲われる。そのヒグマに姉が車から引きずり降ろされるのを、当時大学生だったチアキは後部座席で呆然と見つめた。ヒグマは姉の左足に食いつき、離さない。

「いぎぃいいいっ…」    

 恐怖と痛みのなかで叫び声をあげる姉を目の前に、チアキは意識あるままに柔らかい内臓から食われる恐怖を想像する。

 姉の次に食べられるのは、自分だ……。

 幸いにも猟師の車が通りかかりヒグマは逃げた。グチャグチャにされた姉の足は義足になったが、命は助かった。“襲撃”のあと大学を卒業したチアキは北海道を離れて就職するも、その後、北海道に戻り、女猟師となった。姉の足を奪った「片耳のヒグマ」への敵討ちに執念を燃やす――。

 そうしたヒグマと人間の生々しい対峙場面が随所に描かれているのが、漫画『クマ撃ちの女』。作者の安島さんは、大阪芸術大学を卒業後、映像制作の仕事を経て漫画家になった。緻密な描写と綿密な取材に基づいた作品は、北海道の自然に生きるヒグマの強さと恐ろしさを伝えている。

愛らしいイメージ「壊す」

 冒頭のように、登場人物がヒグマに襲われるシーンは何度か出てくる。

 チアキに猟を指導する猟師も、彼女の目の前で襲われる。ヒグマの大きな爪が猟師の顔を覆いかぶさるシーンは、思わず目をそむけたくなる。

「クマは愛らしいというイメージを持つ人も少なくありません。それを壊そうと思った。ヒグマという最強動物の獰猛さと恐ろしさを伝えるために、あえて生々しく描いているんです」

「クマ撃ちの女」から(安島薮太/新潮社)
「クマ撃ちの女」から(安島薮太/新潮社)

 安島さんは、ヒグマやクマの恐ろしさを知らない観光客が野生のクマへのエサやりをしたり、安易に近づいて写真を撮ったりするような行動がなくならないことに、危機感を持っている。

 確かに日本でも、ヒグマやクマへエサやり体験ができる牧場や施設がある。飼育員によるエサやりが公開される施設では、お辞儀をしてエサをもらったり愛らしい仕草をしたりするクマがテレビ番組などで取り上げられ、その動画はネット上にも残る。

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襲われた猟師から取材で体験談