第二部は基一郎の養子である楡徹吉(てつよし)の生涯が描かれる。斎藤茂吉をモデルとした徹吉の呻吟はほろ苦く、そこに一九三○年代のファシズムへと向かう息苦しさと、西洋に対する歪んだ屈折が重なっていく。
第三部は戦争中から戦後にかけての描写。兄であり、やはり医師で作家だった斎藤茂太をモデルにした峻一(しゅんいち)の、南太平洋での友軍に見捨てられた生活は、大岡昇平の『俘虜記』の陰画のようだ。
三島由紀夫は『楡家の人びと』について「戦後に書かれた最も重要な小説の一つである。この小説の出現によって、日本文学は、真に市民的な作品をはじめて持ち……」と最大級の賛辞を示している。保守とリベラルとを問わず、作家のなすべきことが、まだ明晰であった古き良き時代のエピソードだろう。
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