敵を即死させられる技も力も持っていながら、玉壺は相手の苦悶(くもん)の表情や断末魔の叫びを好む。「自由を奪う」ことで「ゆっくり」と「苦しませ」ながら、「無差別」に「たくさんの人間」を殺そうとするのだ。
■玉壺に立ち向かう「子どもたち」
玉壺は「ヒョッヒョッ」といつも相手をせせら笑い、余裕に満ちた表情で人間を見下す。鬼殺隊柱であると認識しながらも、年若い無一郎には「糞餓鬼(くそがき)」「たかだが10年やそこらしか生きてもいない分際で」と言い、働き者の刀鍛冶の手を「豆だらけの汚い手」と侮辱した。刀鍛冶たちを守って、傷だらけになった無一郎にはこんなセリフを投げつけた。
「本当に滑稽だ つまらない命を救って つまらない場所で 命を落とす」(玉壺/13巻・第111話「芸術家気取り」)
しかし玉壺は、この最年少の鬼殺隊柱と、まだ一人前の刀鍛冶になっていない少年から、「人間の強さ」を思い知らされる。
「私は自然の理に反するのが大好きなのだ」(玉壺/14巻・第121話「異常事態」)
こんなことを言っていた玉壺であるが、「霞の呼吸」という「自然界の力」を体現させたような無一郎の技に翻弄される。
かつて玉壺が食い物にしてきた「子どもたち」から、玉壺は苦戦を強いられ、プライドのすべてをへし折られる。
■玉壺が「敗北感」を感じた人間
玉壺が人間を軽視する理由として、彼は人間のことを「弱く!! 産まれたらただ老いるだけの!! つまらぬ くだらぬ命」(14巻)と言ったことがあった。しかし、そんな玉壺が「敗北感」を感じた人間が1人だけいる。刀鍛冶の鋼鐵塚蛍(はがねづか・ほたる)だ。
攻撃しようとする玉壺の存在にすら気づかず、一心不乱に日輪刀を研磨する集中力を目の当たりにした玉壺は「私とてこれ程集中したことはない!! 芸術家として負けている気がする!!」とほぞをかんだ。