例えば、大阪市淀川区には年間千件を超えるLGBTに関する電話相談が寄せられているが、支援宣言の前はほぼなかった。

「要望がないから取り組まないのではなく、取り組まないことでどんなことが起きているのかを知ってほしい」(村木さん)

 当事者たちの悩みのひとつが病院だ。例えば同性パートナーが手術の同意書にサインできない、病状説明を受けられない、最期を看取れないという問題に直面する。

 昨年、神奈川県横須賀市の病院が患者の手術への同意手続きを家族以外に患者の同性パートナーにも認める方針を打ち出した。都内はというと、小児専門を除く七つの都立病院に尋ねると、三つが同意手続きは「原則同性パートナーでなく家族」と答えた。手術にはリスクがあり、何かあったときにトラブルになるのを防ぐのが目的、という。

●宿泊拒否するホテル

 東京五輪・パラリンピックでは、同性婚が法的に認められた家族が世界中から来日することが予想されるが、日本の受け入れ態勢は大丈夫なのだろうか。

 昨年秋、ゲイのカップルが大阪府内のラブホテルで利用を拒否され、府の保健所がホテルに行政指導をした。拒否された男性はブログに「全身を墨で塗ったみたいに重たくて暗い気分になってしまった」と記している。

 こうした宿泊拒否は違法だ。旅館業法上、伝染病を持っていたり賭博などの違法行為、風紀を乱す行為をしたりする可能性がある場合以外は宿泊を拒んではいけないと定められている。

 では実態は、といえば、先の豊島区議・石川さんが15年にダブルルームがある区内の143のホテルや旅館に電話調査したところ、75施設が男性同士の利用を拒否すると回答した。その後、区はホテルに対して拒否できないと説明するようになったという。だが今年5月、アエラが当時宿泊を拒否したホテルに再度尋ねたところ、電話がつながった64施設中28施設が男性同士の宿泊を拒否。あるラブホテルは「表向きは拒否していないが、トラブルが多いからダメ」。別のホテルは「汚されるからダメ」と偏見に満ちた理由を挙げた。

 また、男性2人の場合は2部屋分の宿泊代を請求するという施設も12あった。実質的には宿泊拒否に近い仕組みだ。 

 石川さんはこう語る。

「区の指導で拒否は違法だという認識は広がってきた。五輪を控え多様な人々が暮らしやすい豊島区、東京にしていきたい」

●特別扱いでなく安心を

 ちなみに、人気の高いホテルチェーン10系列で、それぞれ都内の4店舗を無作為に選び、同様に男性2人でのダブルルーム宿泊を頼んでみたが、こちらは拒否されたところはなかった。

 ただ、ゲイカップルがフロントで「本当にツインじゃなくていいんですか」と聞かれるなど不快な思いをすることも多い。

 国内外のLGBT旅行客の動向に詳しいLGBTコンサルティング会社アウト・ジャパンの代表取締役で、国際ゲイ&レズビアン旅行協会のアジア・アンバサダーも務める小泉伸太郎さんはこう言う。

「LGBTの当事者は、決して特別扱いされたいわけではないですが、ストレスなく利用できる施設や安心できる場所を求めている。今は何が失礼にあたるかさえわかっていないことが問題で、宿泊施設や観光地は少なくともLGBT基礎研修で学ぶことが大切です」

(編集部・深澤友紀、福井洋平、野村昌二/データ作成協力・川越広慈)

AERA 2017年6月12日号

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