●ドミノ倒しに期待も
淀川区や那覇市、岐阜県関市、沖縄県浦添市などが行った「LGBT支援宣言」については大阪市長、大津市長が検討中。「宣言しない」のは8人。「その他」とした世田谷区長や横浜市長はすでに支援や差別解消の取り組みを具体的に進めているとし、新宿区長や山形市長は宣言という形式にとらわれずに取り組んでいくと説明した。
同性婚に賛成か、の質問には「賛成」が12人。「反対」は東京・府中市長と稲城市長、あきる野市長の3人で、その他を選んだ東京・檜原村長も「当事者に任せることであり、行政の介入することではない」と反対の態度を示した。約8割が賛否を表明せず、「社会の理解を促進していくことが重要で、まずは人権教育や啓発を推進する」(広島市)と、まだ機が熟していないという指摘もあった。
学校や職場でトランスジェンダーへの配慮は必要かとの質問には9割近くが「必要」と答え、「不要」はゼロ。「その他」を選んだ首長も「配慮とともに市民の理解促進が重要」(青森市)という立場がほとんどで、同性愛と比べてトランスジェンダーへの理解は進んできているようだ。
自治体行政に詳しい四日市大学の小林慶太郎教授は言う。
「今はLGBTについて認識が共有されているとは言いがたい状況だが、日本はLGBTに対して宗教的なタブーがなく、また自治体は横並びの発想が強いため、今後、ドミノ倒しのように施策が広がる可能性もある」
国際的には、国連人権理事会が11年に性的指向などによる差別問題に取り組む決議を採択し、先進国の多くでLGBTの差別を禁じた法律が成立した。今年のサミット参加7カ国を見ても、カナダ、フランス、イギリス、アメリカでは同性婚が認められ、ドイツには同性カップルに結婚に準じた権利を法律で認めた「生活パートナーシップ制度」がある。同性愛をタブー視するローマ・カトリック教会の総本山バチカンのおひざ元のイタリアでも16年、結婚に準じた法的な権利を与える「シビル・ユニオン(共同生活者)法」が成立。一方、日本ではLGBTに関する法律は「性同一性障害者特例法」しかなく、国レベルで同性カップルに法的な保障がないのはG7のうち日本だけだ。
そんな中で、過去にも情報公開制度や公害対策で、自治体の取り組みの広がりが国を動かした例もあることから、小林教授は「自治体の取り組みが先行することで国を動かす契機となる可能性もある」と期待を込める。
●啓発するが支援は2割
今回のアンケートでは、各自治体で実施している取り組みについても尋ねた。3分の2の自治体が市民向けの啓発イベントを実施。ただ、支援となると、2割程度しか取り組んでいない。
ゲイを公表して当選した東京・豊島区議の石川大我さんは、自治体のLGBTの取り組みには四つの段階があると解説する。(1)市民や職員を対象とした非当事者向けの講演会、(2)電話相談、居場所づくりなど当事者向けの支援、(3)総合計画・基本計画での言及、(4)条例化・制度化、で進むというステップだ。多くの自治体が、まだ(1)の啓発段階にある。首長・区長部の回答に「住民からの要望があれば」という回答が目立つように、背景には当事者支援のニーズをつかみかねている部分もあるようだ。
こうした自治体の姿勢について、性的少数者支援に取り組むNPO法人「虹色ダイバーシティ」の村木真紀理事は言う。
「当事者にはカミングアウトの壁があり、自治体からポジティブなメッセージを出さないと、要望や困っている状況をなかなか伝えられない」