しかし、憲法おしゃべりカフェで使用されるテキスト『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』(明成社)では、個人主義、子どもの権利、婚姻の自由など享受すべき権利すら否定されており、弱者救済からほど遠い。
右派運動とフェミニズムの関係を取材してきた斉藤正美さん(富山大学非常勤講師)は、右派や自民党はこのように女性を取り込む一方で、幾度も牙を向けてきたという。夫婦別姓、男女共同参画条例、性教育、男女混合名簿などがそうだ。中でも大きな転換点になったのは、05年、当時、自民党幹事長代理だった安倍晋三氏が座長、山谷えり子参議院議員が事務局長を務めた「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」の発足だった。
性教育で国が亡ぶ
自民党国会議員に行った調査では、アンケートと当時「つくる会」だった八木秀次氏らが書いた『新・国民の油断「ジェンダーフリー」「過激な性教育」が日本を亡ぼす』を同封。設問でもコンドームの使い方実習の有無をたずねるのに「全国各地の小学生の父母から悲鳴が上がっています」と補足するなど誘導的なものが多かった。
忖度が働いたのか。同年の第2次男女共同参画基本計画には「ジェンダーフリーの言葉を使って性差を否定したりすることは男女共同参画とは異なる」との文言が入った。
「ジェンダーフリー=エキセントリックなものだと印象操作することに成功したんです。教育現場は性教育に萎縮し、女性の問題を論じづらい社会の空気がつくり上げられました」(斉藤さん)
今、懸念されているのは、自民党が今国会で成立を目指す「家庭教育支援法(※注5)」だ。安倍首相が教育基本法を改正し、子どもの教育に親が第一義的責任を持つと定めたのが06年。今度はさらに踏み込み、国が家庭教育の基本方針を定め、地域住民にも協力を求めるという。共謀罪の陰に隠れて目立たないが、要注意である。
すでに条例は静岡県・茨城県など8県と、長野県千曲市など3市町村で施行されている。中でも13年に全国でいち早く条例を施行したのが熊本県だ。県の担当者によれば、「親の学び」講座の実施率は小中学校でほぼ100%。今後力を入れていきたいのは中高生を対象に子育ての意義を学習する「親になるための学び」だ。生徒たちは、自分が将来親になった前提で、我が子の好き嫌いや思春期の悩みにどう応えるかなどを考える。