前出の斉藤さんは言う。
「性に関することは封印する一方で、子どもをもつことが大事だと教育するのは矛盾しています。家庭教育の中でオブラートに包みながら、特定の年齢で結婚・出産するほうが良いなど、価値観の押し付けになる可能性も」
家庭教育は誰のため
熊本県に住む、高校2年と中学3年生の男子を育てるシングルマザーの女性(49)は、この教育の目的がいまひとつ分からないと言う。
「こうあるべき、という生き方を教えられているようで、子どもたちから選択肢を取り上げてしまっているような気がします。熊本もまだまだ震災復興できていないので、先日の自主避難者は自己責任だという大臣の発言に傷つきました。なのに家庭にはずけずけ入ってくるなんて、とんちんかんですよ」
そんな懸念をよそに、講座の進行役を務めた県の担当者は、「中学生の段階で親になる準備として何ができるか考えてやっているだけ。そこまで深く考えていません」とサラリ。
現在行われている家庭教育支援講座の根本は、親が変われば子どもも変わるという「親学」の「主体変容」の考えに非常に近い。親に子育ての責任を転嫁できるため、行政にとって都合がいいのだろう。親学を広める親学推進協会で会長を務めるのが、日本会議政策委員の高橋史朗氏だ。
親学は07年、第1次安倍政権の「教育再生会議」で初めて提案された。日本会議熊本県支部の自民党議員らが高橋氏を招き勉強会を開き始めたのもちょうどこの頃だ。12年には安倍首相を会長にした超党派の国会議員による「親学推進議員連盟」が発足したが、同5月、大阪維新の会が市議会に提出しようとしていた家庭教育支援条例案に「わが国の伝統的子育てによって発達障害は予防できる」など非科学的な記述があったことが発覚。多くの批判を浴び、議連の活動は衰退した。にもかかわらず、熊本ではそのわずか数カ月後に条例が策定されたのだ。その中心になったのは、やはり日本会議所属の議員だった。