実際、東芝製の原発は国内に21基あり、その点検や保守、管理では安定的な利益が見込める。原発のメンテナンス費用は電気料金に上乗せできる(総括原価方式)ため、耐用年数が来るまでは収益を吸い上げ続けることができる。経産省の試算で賠償込みの総費用が21.5兆円とされる福島第一原発の除染・廃炉事業も、手堅い収益源だ。
福島第一原発の3号機と5号機は純粋な「東芝製」。2号機と6号機も付属設備などに東芝の技術が多く入っている。今後進む「核燃料搬出」「燃料デブリ取り出し」の段階では、原発の内部構造を熟知する東芝の技術者の関与が欠かせない。
●次世代の原発技術者へ
だが、メンテナンスや廃炉作業しか担わない東芝に、今いる原発技術者たちが残る保証はない。もし、大量に海外流出すれば、廃炉作業の遅滞につながる可能性もゼロではない。
原子力事業部OBの男性(70代)は、今後をこう憂う。
「最も怖いのは、東芝の現状を見て優秀な若者が原子力業界を目指さなくなることです。個人的にはいまも、原子力発電は将来の基幹電力だと思っています。それを支える優秀な科学者、技術者は不可欠。もし東芝の技術者が国家体制の異なる中国などに流出するようなら、政府が事前に手を打つべきでしょう」
福島第一原発の廃炉への影響については、こう指摘する。
「廃炉作業は、新しい技術を生む可能性も秘めている。これを成功させれば、20~30年後、いまよりも大規模に世界で運転されているかもしれない原子炉の設計、運転、保守、管理技術の総合分野で日本は頭ひとつ抜けた存在になるはずです」
2月15日、東芝は原子力事業を社内カンパニーから独立させて、社長直轄とした。だが、15年の不正会計問題をへてもなお、ガバナンスが機能していなかったことはすでに露呈している。前出の渡辺さんは「より思い切った組織改編」を主張する。
「原子力事業を東芝本体から切り離して、廃炉専門の別会社を作るべきです。日立と協同する形でもいい。本体の影響を受けないようにして適切な報酬を払えば、技術者の流出は最小限に防げるでしょう。廃炉には原子力を熟知した技術者が絶対に必要です。ロボットの性能向上、格納容器などの機器類の切断、洗浄、保管技術、使用済み燃料の貯蔵施設の開発などすべてにかかわってくる。次世代の原発技術者には、廃炉に新しい夢を持ってほしい」
1966年から東芝の屋台骨を支えてきた原子力事業が、足元から崩れ落ちた。最優先すべきは福島第一原発の事故処理への責任を果たすこと。それこそが、「原子力の東芝」が持てる最後の矜持だ。
(編集部・作田裕史)
※AERA 2017年4月17日号