案の定、16年12月初旬にWHは東芝に建設コストの増大を報告。同月下旬には、S&Wの買収で生じる損失が「数千億円規模」となる可能性が公表された。損失額は日を追うごとに増え、今年2月には7千億円超に。東芝はついに、WHの切り離しを決断した。

 3月29日、WHは日本の民事再生法にあたる米連邦破産法11条の適用をニューヨーク州連邦破産裁判所に申請し、経営破綻。WHの債務を保証するための引き当て金などが東芝の損失に加わり、17年3月期の赤字は1兆円を超える見通しとなった。

 東芝は事実上、海外原発事業から撤退。原発事業そのものの縮小も余儀なくされる。原子力設備の設計、製作に従事したOBの男性(71)はこう語る。

「WHを買収した06年ごろから、M&Aや金もうけに走り、モノ作りを大切にしない風土が広がっていったように感じる。東芝にはBWRという確かな技術があるのだから、規模拡大に走らずに地道にやってほしかった」

 日本の発電用原子炉は大きく2種類に分かれる。東芝と日立製作所のBWR(沸騰水型軽水炉)と三菱重工業のPWR(加圧水型軽水炉)。国内ではシェアを5割ずつ分け合うが、世界では6割強がPWRだとされる。東芝はPWRの技術を持つWHを買収して両方の技術を手中に収め、海外進出しようとした。

 ここに大きな落とし穴があったと見るOBもいる。

●コントロール不能に

 東芝に34年間在籍し、福島第一原発3号機、5号機、浜岡原発の設計にも携わった渡辺敦雄さん(69)はこう話す。

「現場の技術者も経営陣も、PWRのことは何もわからない。WH買収に動いた佐々木則夫元社長は私の1期下ですが、彼もPWRに関してはド素人です。技術が分からないのに適切な見積額がわかるはずがない。WHの事業は東芝にとって『ブラックボックス』になる。海外事業ならなおさらです」

 渡辺さんによると、原子力事業では長い時間をかけて一つの技術を熟練させていくことが求められる。構造の複雑さゆえ、むやみに新しい技術を入れると故障リスクも高くなる。専門外の技術への対応は難しく、異なるコア技術を持つ企業の合併はリスクが高い。そこに海外特有の契約事情が絡めばコントロール不能になるのも当然、と渡辺さんは言う。

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