ちなみに東芝の原点は、前身の「田中製造所」の創業者が作っていた、からくり人形。ソニーの始まりが、木製の電気炊飯器と知った時も驚いたけど、こっちはなんせ江戸末期。イノベーションの年季が違う。

 昨年6月、その白物家電事業は「TOSHIBA」ブランド名のまま、中国の「マイディアグループ(美的集団)」に買収された。かつて世界トップシェアを誇ったパソコン事業は富士通などとの統合を模索したが、失敗して縮小。そして屋台骨にまで育った半導体事業は売却決定と、諸行無常が進んでいる。

 東芝びいきのユーザーたちを見つけ、訪ねてみた。つい最近も、東芝製のフルハイビジョンテレビを購入したという、電化製品好きの団体職員、山田秀男さん(62)は言う。

「目新しくはないものの、そこそこ便利な機能があって、値段もそこそこ。そんな視点で選んでいった結果、家のなかに東芝製品が増えていきました」

 昭和時代は、白いお釜にシルバーのふたがついた電気釜をはじめ、手回し脱水の洗濯機やテープレコーダーなど。21世紀になってからは「マニアックな編集ができる」DVDレコーダーや、「散らばらないゴミ捨て機能が気に入った」サイクロン掃除機など、多くの東芝製品を愛用してきたという。

●録画神が作った文化

 とくに電気釜は、70年頃に実家で購入したものを譲り受け、なんと昨年まで“現役”だったという。

「壊れないんですよ。単純な仕組みなのに、炊きあがりもやっぱりそこそこおいしい。そんなふうに、気がつけば近くにあって、当たり前のことを当たり前にこなす、いつも80点の家電メーカーだったと思います」

 そんなそこそこな東芝についてIT・家電ジャーナリストの安蔵靖志さんはこう分析する。

「生活家電というのは、スペックによる比較が難しく、どれだけ消費者の感情に訴えるマーケティングができるかが勝負というところがある。東芝の生活家電は、そこが弱かった」

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