「家が『ホテル化』し、家に帰るモチベーションが高まります」(松尾准教授)

 一方で城西国際大学の品田知美准教授(社会学)はテクノロジーの進化が主婦を楽にしたという見方そのものに異を唱える。

「家電製品は日本ではあまり家事時間を減らさなかった」

 洗濯機の導入は家庭内で洗濯できる衣類の種類を増やした。住空間が広がり掃除をするべき場所も増えた。冷蔵庫が普及しても日本の食卓では日々の買い物をしないわけにもいかない。さらに高度経済成長期が訪れ、メディアを通して人々は「豊かな生活」のイメージを刷り込まれていった。必要とされる家事水準が高まり、さらにごみの分別、役所への書類提出、子どもの習い事の送迎、PTA業務など新たなミッションも加わって、結果として家事も育児も楽にならなかった──そう品田准教授は分析する。

 加えて日本では戦後、「お手伝いさん」が消え、家事は賃金の発生しない「無償労働」としてとらえられた。立命館大学の筒井淳也教授(社会学)は、「そのため技術がいくら発達しても、無償だから無限にやることが増えていくのです」と語る。

 戦後の社会変化は、さらに見逃せない変化も生んだ。品田准教授はそれを「結婚した女性、特に子どものいる女性に対する家事の一極集中」と語る。

「子どもがいると育児や教育の時間のほかにも、洗濯や食事作りなど家事にかける時間が飛躍的に増える。そのしわ寄せが女性にだけ訪れた」

 女性の家事負担増は、戦後に「専業主婦」という存在が増えたことも一因だ。大阪市立大学の服部良子准教授(社会政策)は、「復員した男性が仕事に戻るため、外で働いていた女性は『家に入るべきだ』というロジックが誕生した」と語る。高度経済成長期に高まった労働需要は農村男性が担い、女性の社会進出が求められない時期が長く続いた結果、「男は外で働き、女は家で家事・育児をする」という役割分担が日本で確立、定着したのだ。

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