全国で発行される「食べる通信」。山口さんは創刊号で「泉州水なす」を特集した。B5判16ページの冊子に食材が4人分、水なすを主人公にしたオリジナル絵本も付いて3980円。以後、奇数月に発行し、偶数月には料理教室や生産地バスツアーなどを企画している。ヒルズ族から生産者と消費者をつなぐ「食べる通信」の編集長への転身で、山口さんが求めたものは何だったのか。

「リーマンの破綻は、実体と離れた信用経済の破綻でした。現場に足を運び、自分の目で見て、触れて、話を聞く。不便で効率が悪くても、そんな原点に返ることが必要だと思うんです」

●間に入ることで事件

「神奈川食べる通信」の編集長を務める赤木徳顕さん(52)は、IT起業家からの転身。昨年12月初旬には、築300年のかやぶき屋根の古民家に「神奈川食べる通信」の読者と生産者が集まってをつき、具だくさんの豚汁を作った。食材の中には11月号で特集した「苅部大根」もあった。

「苅部大根を丸ごと1本おいしく食べる調理法は?」

「お餅がカビないようにするにはどうしたらいいですか?」

 頬張りながら会話もはずむ。

 赤木さんは大学を卒業後、野村総合研究所に就職。1995年にマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院に留学し、シリコンバレーに駐在した。2000年に鮮魚販売のネットビジネスを起業したのが食との最初の接点。05年に横浜に地産地消レストランを開いたのは、こんな思いからだ。

「生産者と消費者の間に多くの工程が入ることで、雪印などの食をめぐる事件が起きていた。両者を直接つなぐことが大事だと思いました」

 しかし、店に足を運べる人の数は限られ、思い描くような、地産地消をサポートするコミュニティーの確立にまで発展させることは難しい。ジレンマを抱えていたころに「食べる通信」を知り、14年11月、都市部では初となる創刊を果たした。

 楽なスタートではなかった。

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