「苦労もありましたが、50歳を過ぎてからこんな形で夢がかなうとは。でも、やっぱり一つの夢を追いかけるとかなうんですよね。これからもいまの仕事を極めたい。私ができるのは漫画で相撲を伝えること。それしかできないし、それを伝えていくのが私の使命です」
●辞めるという“賭け”
シンクロナイズド・スイミング・チームの日本代表として04年アテネ五輪で銀メダルを獲得した北尾佳奈子さん(34)は現在、世界的なエンターテインメント集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」のパフォーマーとして活躍している。
カナダのモントリオールに本拠を置く「シルク・ドゥ・ソレイユ」にはいくつものショーがあるが、北尾さんが出演するのは米ラスベガスを拠点にする水をテーマにしたショー「O(オー)」。
人工湖での噴水ショーで有名なラスベガスの一等地にあるベラージオホテルで行われる「O」は、巨大プールを舞台にしたアクロバットあり、シンクロナイズド・スイミングあり、ダイビングありのまるで水中のオペラのようなショーで「シルク・ドゥ・ソレイユ」の中でもとくに高い人気を誇っていると評判だ。
北尾さんは、05年の世界選手権を最後に23歳の若さで現役を引退。同世代のチームメートの多くは次の北京五輪を目指したが、そんな気分にはなれなかったという。
「辞めたときは大好きなシンクロがもう一生できないという不安でいっぱいでした。でも、シンクロが好きだったからこそ、辞めるという“賭け”に出たんです!」
なんだか矛盾する話だが、どういうことか。
「五輪に出て、メダルを取るという夢を果たせたのですが、どうもスッキリしなくて。自分が見せたいシンクロができなかったというか、これまでやってきたシンクロでは自分が思い描いていたものが全うできないと思ってしまったんですよね」
●週に2日も休み
そんな折にタイミングよく日本であったオーディションをキッカケに06年に「シルク・ドゥ・ソレイユ」に入団。もちろん、入団したからといって誰もがショーに出られるわけではない。
「“O”のショーに出られるスイマーは16人のみで、その時点ではあくまで候補者リストに名前が入っただけ。空きが出なければショーには出られませんし、まずはトレーニングキャンプに招集されて、そこで実力や性格を判断されて、仮契約から本契約という手順を踏むことになります」