●適度な抜け感を計算

 服への意識が変わったのは、入居1年後、会社を辞めフリーランスになってから。共有スペースで過ごす時間が長くなるにつれ、それまでの部屋着に違和感を覚えるようになった。

「共有スペースは家の中でありながら、“ちょっと外”という微妙なさじ加減の場所。ルームウェアはちょっと違うと感じるようになりました」

 ラクさに加えシェアメイトに対してそこそこの「きちんと感」も必要と思い、マキシ丈のストンとしたワンピースにパーカーをはおったり、スウェットのロングスカートにTシャツを組み合わせたりといった格好が定着していった。

 全身キメキメでなく、適度な抜け感がいまどきオシャレのポイント。しかし一見さりげなくナチュラルに見せて、その実、緻密な計算が必要だ。ゴミ捨て、犬の散歩、庭の草取り……ご近所さんと鉢合わせしても洗練された印象を醸し出せるワンマイルウェアこそが重要で、「こうしたところで手を抜かないのがおしゃれ上級者の必須条件」と女性誌などはうたう。

 首都圏に住む女性(39)が仕事を辞め、専業主婦になったのは3年前。小学校受験を視野に入れ、娘(7)を幼稚園に入園させたタイミングでだった。まず壁に当たったのは、幼稚園の送り迎えのときのワンマイルウェアだ。

 幼稚園ママたちの定番服は“ボーダーT+ジーンズ”。入園して間もないころ、かつての仕事着だったセオリーのテーラードジャケットを着たままお迎えに行ったら、だれも話しかけてくれなかった。

「後日、『あんな格好をしていると近づきにくいわ』と言われてしまいました」

●空気読みチューニング

 朝からフルメイクで高級ブランド服を身にまとったセレブ風ママもいたが、主流はナチュラルでプチプラ服のママ。

「ヴァンクリのイヤークリップをしていたお母さんがいたのですが、陰で“ヴァンクリの人”と呼ばれていました……」

 普段着コーデは空気を読んだチューニングが大事。女性の腕時計はカルティエだったが、幼稚園用にGショックを購入。送迎は、好きなブランドの服とファストファッションのミックスで落ち着いた。

「幼稚園で『その服、ステキ~』ってブランドファッションをほめられても、『シャツはユニクロよ~』って抜け道をつくるんです」

 これこそが処世術。家とご近所くらいくつろぎたいものだが、高度なファッションセンスと空気を読む力が必要な“ワンマイルウェア”が幅をきかせる限り、気は抜けなさそうだ。(編集部・石田かおる)

AERA 2016年10月10日号

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