
オリンピックやパラリンピックは教材としても最強だ。そして日本は実は、五輪教育の先進国。東京都では4年後に向けて、すでに取り組みが始まっている。
パイプいすに座って見上げるバスケットゴールは思った以上に高くて遠い。車いすバスケットボール元日本代表の京谷和幸さん(45)は、さらに言った。
「シュートするときはひざを使うよね。でもみぞおちから下の感覚がない僕は、ひざも使えないし足も踏ん張れない。足を伸ばしたままシュートしてみて」
東京都福生市立福生第三中学校の体育館。生徒たちは次々にゴールを狙うが、ボールは遥か手前で失速してしまう。バスケ部に所属する2年の田中景都さんは、目を輝かせた。
「初めて、車いすバスケの魅力や選手のすごさが分かった」
2020年の東京オリンピック・パラリンピック(以下、オリパラ)に向けて、今年4月から、都内すべての公立小中高校などでオリパラ教育がスタートした。「オリンピック・パラリンピックの精神」「スポーツ」「文化」「環境」の四つのテーマに「学ぶ」「観る」「する」「支える」の四つのアクションを組み合わせた活動を、各校が年間35時間程度を目安に行う。冒頭のシーンは、アスリート派遣事業「夢・未来プロジェクト」の一コマで「スポーツ×する」にあたる。
●お題目にしない説得力
京谷さんはプロのサッカー選手になりたいという子どものころからの夢をかなえたが、Jリーグ開幕の年の秋、交通事故で下半身の機能を失った。その後、車いすバスケと出合い、4度パラリンピックに出場。現在は車いすバスケの日本代表コーチを務めるほか、サッカーの指導者としても一歩を踏み出した。
ともすればお題目に聞こえる「どんなときも夢を持ち続けることが大切」というメッセージも、体現者がいれば説得力を持つ。3年の田村蓮君は言った。
「英語の教科書に載っている京谷さんに会えるなんて夢のよう。僕もつらいときは、京谷さんの言葉を思い出して頑張りたい」