本番前の泳ぎ込みの時期だったが、表情は明るい。練習タイムが少し上がっただけで自信をもてる。ドーパミン全開の「前向き力」が強みだ。
超ポジティブな性格は父親似らしい。
「(松岡)修造さんに会うと、お父さんに会ってる感じ」
と言うから、想像がつく。瀬戸家では「無理」はNGワードだ。3歳のころ、好きな女の子に会いに2キロ先まで自転車で行くと言って実際に向かった瀬戸を、父がビデオを回しながら付き添った2時間の記録が残っている。何度も転びながら、父親に励まされてたどり着いた。
「怖いもの知らずでいいなぁ」
ライバルの萩野公介からもそう言われる。
萩野が欠場した昨年の世界選手権は、200メートル個人メドレーで準決勝敗退と惨敗しながらも立て直し、400で自己ベストを更新。2連覇を飾った。
瀬戸は言う。
「(萩野とは)持ってるものがまったく違う。だから、正面からガツンといかずにリスペクトし合えるのかな。アイツは考え込むタイプだけど、僕は感覚人間だし」
得意種目も、萩野は背泳ぎ&自由形で、瀬戸は平泳ぎ&バタフライとクロスする。小学生までは萩野のほうが断然速く、タイムを知ったときは、
「あまりに速かったので、絶対に年齢が間違ってるって母と話した」
というほど。中学2年生の全国大会で初めて破った。
ロンドン五輪の選考レースでは2位にも入れず落選。プールに入る気にもなれなかったが、萩野のメダル獲得を見て奮い立った。ここまでこられたのは、
「萩野のおかげ」
だからこそ、「2人でワンツーフィニッシュ」の夢をかなえたい。
「おまえなら、できるぞ」
父のエールを胸に、最大のライバルとともにリオのスタート台に立つ。(ライター・島沢優子)
※AERA 2016年8月8日号