「1970年代頃までは教師の言うことは絶対だった。ところが、80~90年代に親の学歴も高まり、教師と対等か、それ以上の立場で学校教育に物申すようになり、部活へも要望をぶつけるようになった。教師に専門性のある授業と違って、部活は親も意見しやすい。少子化もあり、わが子のためを思う親の意見は過熱していった」
●親の人生の敗者復活戦
プロや五輪選手になれるのは一握り。それなのに、親たちはなぜそこまで「わが子の部活」に熱中してしまうのか。
長男が高校球児だという都内在住の40代の会社員は言う。
「小学生の間は夢を追うが、中学、高校になるとわが子の現実がわかります。ただ、“もしかしたら”と希望を抱くのが親心でしょう。自分のことでもう夢は見られない。子どもが勝てばスカッとしますしね」
わが子の部活が、親の人生の「敗者復活戦」になっているようにも映る。結果を求め感情的になった親が「部活モンペ(モンスターペアレンツ)」になるのかもしれない。
●わが子でなくチームを
多くの教員が保護者の「部活熱」に悩むなか、広島県立安芸南高校サッカー部を率いる畑喜美夫さんは涼しい顔で言う。
「親御さんとのトラブルを抱えたことがありません」
06年全国高校総合体育大会で前任校の県立広島観音高校サッカー部を日本一に押し上げた。この快挙は、畑さん独自の「ボトムアップ理論」によってもたらされた。著書『子どもが自ら考えて行動する力を引き出す 魔法のサッカーコーチング』にも詳しいが、平日の練習はたった2日。練習メニューや試合のメンバー決め、選手交代などは、すべて選手たちに率先してやらせる。顧問からのトップダウンで運営される従来の部活とは、真逆だ。
畑さんによると、年度初めに入部してくる生徒の保護者に、以下のような「三つのお願い」をするという。
(1)勝った負けたで一喜一憂しない。負けたときは勝ったとき以上に成長するチャンス。
(2)「わが子」でなく「チーム」を応援する。
(3)子どもが苦しんでいるとき、すぐに手を差しのべない。子どもが自分で考えて解決する姿を見守る。
「教員が子どもとかかわれるのは学校とグラウンドだけ。一日の半分を過ごす家庭での時間はとても重要です。自ら考えて動く力をどう育むかを考えてほしい」(畑さん)
部活動を子どもの成長の機会とするには、“親”の姿勢も問われることは間違いない。(ライター・島沢優子)
※AERA 2016年7月4日号