国や県内外の自治体から応援の職員も派遣されてはいるが、人手は常に不足しがち。そのうえ、職員自身も被災している例が大半で、家を失った職員もいれば、子どもを実家の母親に預け、仕事を続けている職員もいる。顔見知りの住民も多く、「こんなときこそ頑張らなければ」という思いもあるだろう。みな、なかなか休みたがらないが、日置村長は職員の顔を見れば、限界が近いとわかる。
●「帰りなさい。命令だ」
「休めば効率が上がることもあるから、無理せず休みなさい」
「きついときは、自分からも言ってほしい」
こう声をかけ続けている。
気をつけているサインが、冗談を飛ばした後の反応だ。その場は笑っても、机に向かうと憔悴した表情に戻る。そんなときは、断固として言う。
「帰りなさい。命令だぞ」
西原村では、職員を4班に分け、全員が週末に1日は休めるようにした。
ただ、村長自身はほぼ不休だ。6月の初めに「休み」を取ったが、村の状況が気になって、結局2時間で職場に戻っていた。
「手が回らず休むどころではないという現場の思いは、痛いほどわかります。そんな支援者をどうサポートするかは大きな課題です」
自身も被災者の一人である山口所長は自戒を込めて話す。
被災者や支援者の心を守るには、これからどんなことが大切なのか。
地震、津波、さらに原発事故と大災害が三つ重なった東日本大震災は、生活再建が遅れたためにハネムーン期が不自然に長期化し、幻滅期が遅れるなど特殊だったが、学んでほしいことは大いにある、と前出の堀医師は指摘する。
「個人の能力を超えて負荷がかかる。孤立して援助を受けられない。そんな状況から逃れられない。この三つの条件がそろうと、人は自殺しやすくなります」
堀医師は12年7月末、仮設住宅近くで毎朝のラジオ体操を企画。「みんなのとなり組」というNPO法人もつくった。コミュニティーを復活させたいとの思いからだ。
参加者たちは、短時間の体操の後、雑談をして、いつもの生活に戻っていく。それを繰り返すだけだ。
それでも、自分を心配し、認めてくれる人がいる。話し相手がいて、孤立していないと感じる。うつから心を守るには、日常の小さな実感の積み重ねこそが、大切だ。(編集部・熊澤志保)
※AERA 2016年6月20日号