熊本地震の被災地では、生活インフラの復旧が進み、仮設住宅も建ち始めた。その順調さの裏で、被災地の人々へ新たに迫りつつあるのが「心の危機」だ。
最大震度7の地震に2回襲われてから2週間が過ぎた4月下旬。保健師の要請で熊本県内の避難所を訪れたDPAT(災害派遣精神医療チーム)のメンバーは、相談内容に変化を感じ始めていた。未就学児の親が増えてきたのだ。
「前はできていたのに、着替えができなくなった。赤ちゃん返りをしているようだ」
「すぐ泣き出してしまう」
「落ち着きがなくなった」
不安を訴える母親らに、医師と看護師が丁寧に説明していく。
「避難所は普段の生活環境とは異なるためストレス反応が出ているんです。時間が経ち、状況が改善していくにしたがって収まっていくと思いますよ」
DPATは、災害時に被災者の心をケアするため、医師や看護師らが中心になって作られるチームだ。東日本大震災後の2013年に厚生労働省が制度化し、翌年の広島県の土砂災害で初出動した。
熊本地震で出動要請があったのは、前震から数時間後の4月15日未明。午前中には沖縄や佐賀など5県から先遣隊が被災地入りした。
活動は最初、精神科入院患者の転院搬送から始まるが、それだけではない。時期によってニーズが変わるのだ。
●まずは不安解消から
DPAT事務局の渡路子次長は言う。
「1週間以内の急性期は被災した精神科のサポートや精神疾患を持つ被災者に対応し、以降は避難所支援と支援者支援が大きなミッションになりました」