AERA2023年2月27日号より
AERA2023年2月27日号より

池上:しかし米国や欧州の多くの国、日本でも、ウクライナ戦争の一番の責任はロシアにあるというのが一般的な世論です。トッドさんの発言はかなり勇気のいることではないですか。

トッド:ウクライナはフランスと同じ欧州の国ですから、感情的にも難しい面はあり、私もフランスでの発言には慎重になっていました。まずは日本でウクライナ戦争に関する発言をしてきたのもそれが理由です。

 ただ、フランスの新聞フィガロで受けた最近のインタビューは、日本で出した新書『第三次世界大戦はもう始まっている』とほぼ同じタイトルの内容でしたが、大きな反響がありました。ウクライナへの戦車供与の話が出て、フランス国内でウクライナ戦争への見方が大きく変わったタイミングで発表されたこともあったでしょう。戦車を送るということは戦争をすることと同義だからです。記事には批判もありましたが、私のような見方も受け入れられる雰囲気が出てきている感じはします。

 とはいえ、フランスで世論調査をすると、ほぼ皆「反ロシア」という立場なのは戦争が始まって以来、変わりません。「ロシア嫌い」にとらわれたメディアの影響も大きいと思います。少し合理的な議論が始まろうとしている、くらいの言い方が正しいかもしれません。

 そういった議論の中で私の役割というのは、ロシア、ウクライナどちらかの側につくということではなく、中立の立場で、ロシア嫌いの人も含む全ての人に役立つための発言をすることだと考えています。例えばメディアでは「ロシア人たちはプーチン政権下、恐怖の中で生活している」といった報道がなされていたのですが、これは事実とは異なっていたわけです。

 私は、ロシアという国はプーチンが支持されている中でソ連崩壊後の危機的状況から見事に立ち直り、社会として安定化へ向かっている、と戦争の前から指摘していました。プーチン政権が崩壊することはないと私は見ています。ロシアを批判したいのであれば、ロシアがどんな国なのか冷静に知ることから始めるべきだと私は思うんです。

(構成/編集部・小長光哲郎、通訳・大野舞)

AERA 2023年2月27日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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