エマニュエル・トッドさんと池上彰さん。歴史人口学者とジャーナリストが2月24日で1年となるウクライナ戦争について意見を交わした。AERA 2023年2月27日号の記事を紹介する。
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池上:トッドさんは昨年の段階から、「ウクライナ戦争の最大の責任は、ロシアやプーチン大統領ではなく米国とNATO(北大西洋条約機構)にある」とおっしゃっていますね。
トッド:この戦争は米国やNATOの対応次第で、つまり「ウクライナの中立化」というロシアのかねての要請を西側が受け入れてさえいれば容易に避けることができました。軍事支援を通じてウクライナを事実上の加盟国にして、今も武器を提供しているNATOと米国に戦争へと仕向けた直接的な責任があると考えています。
池上:米国はさまざまな兵器をウクライナに供与していますが、ロシア領土を直接攻撃しないことを条件にしています。ウクライナ国内に入ってきたロシア軍にだけ使え、という限定的な形です。つまり米国は、ロシアとの代理戦争をウクライナを舞台に戦っている。最大の被害者はウクライナだと思います。
トッド:同意します。ウクライナをさらに武装化すべきだと主張する人もいますが、彼らはウクライナが勝てないだろうことは薄々わかっている。犠牲になるのはウクライナの人だと知った上でのそういう議論は、とても非道徳的なものだと思っています。私は戦争に反対の立場です。ただ、どうしても戦争をするならば、直接戦うべきです。第三国を介したような戦争は、さらに道徳的ではありません。
■民主主義の理想の逆
この戦争は、グローバル化が極端に到達したところで起きている、とも考えています。グローバル化の原則とは、生産拠点を移転すること。移転することでより安い人材を使う。その点で今のウクライナ戦争を見ると、米国や西側諸国が軍事の人材もアウトソーシングしているという見方もできるわけです。ウクライナの兵士を使いながらロシアと代理戦争をしている。民主主義の理想の逆をいってしまっていると私は考えます。