管理職に登用された女性たちが孤立し、苦闘している企業が少なからずある。降って湧いた「女性管理職バブル」のせいだ。
衆院解散で女性活躍推進法案は白紙になったものの、安倍政権が「2020年までに指導的地位の女性を3割に増やす」と表明したことで、女性管理職はにわかに脚光を浴びた。経団連の役員企業47社の約6割が数値目標を掲げるなど、企業は女性管理職を増やそうと躍起だ。会員制転職サイト「ビズリーチ」ダイバーシティ採用支援室長の加瀬澤良年(かせざわよしとし)さんはこう分析する。
「女性が管理職に挑戦しやすい機運が盛り上がっている。しかし、実績のある女性はわずか。数少ない優秀な人材の抱え込みや奪い合いが起きています」
管理職となる年代の女性のパイが小さいのは、新卒の採用数が少なかったうえに、「M字カーブ」と呼ばれる出産・育児による退職が原因だ。社長が「17年までに30%増!」などとノルマを掲げても対象者がおらず、人事が途方に暮れるケースも少なくない。さて、どうするか。
手っ取り早いのは、能力的に「ゲタ」を履かせてでも数値目標を達成する方法。株主総会前に実態のない「バブル登用」をして数を膨らませる企業もある。人事コンサルティング会社の営業の男性(32)は言う。
「女性が制服を着ているような会社で、身の丈以上の評価による登用がある。周囲も反発するが、最大の抵抗勢力は女性本人。ここにきてゲタを履かされることへの怒りがあるのです」
1986年の男女雇用機会均等法施行後に入社した女性は、曲がりなりにも実力でキャリアを積んできた自負がある。いざ管理職という局面で一足飛びに上げられると、努力や実力までも「ゲタ」にかき消される。
「実力のある女性ほど、ブームのゲタ登用だと思われたくなくて、管理職になりたがらないか、なっても辞めてしまう」
そう悔しがるのは、女性登用が急速に進むメーカーで働く女性(39)。あからさまな上げ底の横行で、女性社員の間で「実力かゲタか」と猜疑心が強まっている。米フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグさえ悩んだ「インポスター症候群」。登用の根拠が不透明で、女性が自己評価を下げてしまうのだ。
※AERA 2014年12月1日号より抜粋