バンクーバー五輪でキム・ヨナに、ソチ五輪では羽生結弦に、金メダルを獲らせた。いまや、フィギュアスケート界「最強のコーチ」と言っていい。その指導法とは。
現役引退後、ショースケーターをしていたオーサーが、カナダ・トロントの「クリケットクラブ」を拠点に、コーチに転身したのは8年前のことだ。バンクーバー五輪で金メダルを目指すキム・ヨナのコーチなどをしてきた。彼の選手へのコーチング論は徹底している。
「結弦もヨナも、私のところへ来る前から的確な指導を受けていた。だからこそ国際レベルに成長した。過去の指導を否定したり、クセを直そうとしてはいけません。選手のすべてを受け入れ、こちらが合わせるのです」
コーチ自身の理論に合わせて選手の技術を修正するのが一般的だが、オーサーは逆なのだ。
「結弦と2年間やってきたことは、結弦の性格や練習のタイプを知り、彼が求めているモノを与えることです。彼の場合は自分で考えながら練習したいタイプですから、むやみに口出しすることは控えました。私はトリプルアクセルが得意でしたが、私と同じフォームで跳べと言ったことは一度もありません」
2人の練習では、羽生のジャンプをオーサーが撮影し、その都度一緒に映像を見る。「見た目はこうだ」「跳んだ感触はこうだ」と意見を出し合いながら、「成功するフォーム」を分析した。一方、同じチームのハビエル・フェルナンデス(スペイン)は、自分の身体感覚だけを重視する選手。彼の場合は撮影はせず、オーサーが「今のジャンプは左に傾いていた」「じゃあ次は右を意識します」など会話を繰り返し、身体に覚えさせていく。
「人によって筋力や背丈が違うので、一般論が合うとは限らない。選手に与えるべきなのは、技術ではなく自信。快適に滑れる環境が大事なのです」
※AERA 2014年11月10日号より抜粋