スーツケースひとつで身軽に町へ荒野へ。1人に戻る時間が人生を深めてくれる(撮影/今村拓馬)
スーツケースひとつで身軽に町へ荒野へ。1人に戻る時間が人生を深めてくれる(撮影/今村拓馬)
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 今の状態がすごくつらい時。思い切ってがっつり休んで、ひとり旅に出るという手もある。異文化に飛び込んで得られるものは? 経験者に話を聞いた。

 7年前のゴールデンウイーク。工業デザイナーの整さんは単身で10日間、海外旅行に出た。

 背景には仕事での苦悩があった。希望の部署に異動した矢先、その部門が他社に買収された。もう夢だったプロダクトはデザインできない。年齢を考えると、転職もかなわないかもしれない。

「おれはついてない。これまで頑張ってきたのに、なんのために生きているんだろう」

 気晴らしに計画したアジア旅行が、友人の急な仕事でひとり旅になった。改めて決めた行き先はスリランカ。比較的英語が通じ、世界遺産が多いのが魅力だった。街から街へ安宿を泊まり歩く、バックパッカーデビューだった。

 異文化の洗礼は、空港から街へ向かうバスの中で受けた。聞き覚えのある音楽が流れていた。

「どこか妙だと思ったら、欧米のポップスを現地人の歌手が歌っていたんですね」

 たくましさに半ばあきれ、半ば笑った。スリランカには、忘れかけていた生命力があった。

 衝撃は翌日も続いた。現地の三輪タクシー、スリーウィラーに乗ったガイドの青年の日本語は、思いのほか流暢だった。聞けば、日本人旅行者との会話だけで学んだという。

「頭が下がる思いでした。それに引き換え、自分は何をくよくよしているのか」

 自分の悩みが小さく思えた。夢だったプロダクトはデザインできなくても、現場でデザイナーとして仕事を任され、期待されている。それは、恵まれたことではないのか。

 見方を変えたら、楽になった。

AERA 2014年11月10日号より抜粋