メダルよりも、挑戦し続ける苦しさと喜びを見せてくれた浅田真央。五輪後はその動向や、引退時期なども注目されている。競技を続けるにあたっては、年齢にともなる体の変化も重要なファクターになる。
トリノ五輪で銅メダルだったイリーナ・スルツカヤ(ロシア)は当時27歳。ソチではカロリーナ・コストナー(イタリア、27)が3度目の挑戦で初のメダルとなる3位に輝いた。だが、過去5大会の金メダリストを見ると、トリノ五輪で24歳だった荒川静香を除けば、全員が10代。浅田と同じ年、23歳のキム・ヨナも今季での引退を発表。女子フィギュア選手が若くして引退することが多いのは、体の変化が影響している。フィギュアスケートコーチで国際スケート連盟技術認定員の資格も持つ岡﨑真さんは次のように解説する。
10代半ばから20歳前後に成長する過程で、皮下脂肪が増えて体は丸みを帯びる。特にスケート選手はリンクが寒いため、脂肪が蓄えられやすく、体の重さや空気抵抗の増加でジャンプが跳びにくくなってしまう。さらに、背が低いうちは重心も低いため、ジャンプのバランスが取りやすく、軸がぶれても影響が少ないが、背が高くなるとジャンプの修正が難しい。
「小中学生の頃に頭角を現したのに、成長と共にうまく跳べなくなって消えていく選手は何人もいました」(岡﨑さん)
一方で、年齢とともに磨かれるものもある。
「フィギュアスケートの本質であるスケーティング技術は年数を重ねるごとに磨かれ、表現力は心が成長し、人生経験を積むほどに良くなります。浅田さんにとって、この4年間は苦しかったと思いますが、安定期に入り、これから、という期待もあります」(岡﨑さん)
すでに浅田はジャンプの調整が難しい時期を超え、この4年間はスケートを見直し、成果を出してきた。だからこそ選手としてのピークは4年後だと考える人もいる。浅田が在籍する中京大学スポーツ科学部の湯浅景元教授はこう語る。
「これまでの試行錯誤が今、少し開花し始めたところではないか。芸術性を競うのはこれからが勝負。スポーツ科学者としての立場から、できれば次の五輪で、浅田真央なりの円熟した演技を完成させてほしい。体力は25歳から30歳くらいまでがピーク。精神力もいろんな失敗を繰り返してこそ強くなる」
※AERA 2014年3月3日号より抜粋