トンネル技術者阿部玲子(50)「猪突猛進で、ダメと言われたら絶対やってやると執念を燃やすタイプ」。インド・バンガロールの地下鉄工事は日本の政府開発援助(ODA)事業だ(撮影/田村栄治)
トンネル技術者
阿部玲子(50)
「猪突猛進で、ダメと言われたら絶対やってやると執念を燃やすタイプ」。インド・バンガロールの地下鉄工事は日本の政府開発援助(ODA)事業だ(撮影/田村栄治)
この記事の写真をすべて見る

 インド南部の840万人都市バンガロール。渋滞と喧騒が日常の、IT産業で発展するこの街では現在、総延長約42キロに及ぶ、初の地下鉄工事が進む。2015年に全線開通予定だ。

 約4万人が関わるその国家プロジェクトで、阿部玲子(50)は約3年前から品質管理の責任者を務めてきた。ヘルメットと安全靴を着け、点在する現場を渡り歩き、手抜かりがないか目を光らせる。トンネルの壁にひびを見つければその部分の取り替えを命じ、コンクリートの強度が不足していたら取り壊しや修繕を指示する。

 工事で掘った穴を埋める土に、プラスチック片などのゴミが混じっているのを見つけたときのことだ。

「取り除いて」
「でも埋めればいいんでしょう、マダム」

 作業員のその返事に、自称ピーピー・ケトル(やかん)が噴き上がる。

「つべこべ言わない! 今すぐやって」

 そんなやりとりはしょっちゅう。初めは女性ということで皆にギョッとされ、男の仕事場に何しに来たと言わんばかりの態度にも何度も接した。しかし、すぐに「怖い人」と評判に。ただ、怒るだけでなく、その場ではできなくても、後で必ず「なぜ」を理解させた。やがて、プロジェクトの最高幹部の一人として、敬意を払われるようになったという。

「技術大国の日本から来たということも、私に対する信用・信頼につながっています」

 大きなものを造りたいとの思いから、大学で土木を専攻した。唯一の女子学生で、トンネルが専門の教授だけが研究室に受け入れてくれた。大学院を出てからゼネコンに就職したが、「女性は山の神を怒らせる」といった理由でトンネル工事の現場からは除外された。そんな環境に行き詰まりを感じ、ノルウェーに留学。同国企業での研修で、初めてトンネル工事の現場を経験した。

 帰国後の00年から4年間、台湾で新幹線のトンネル工事に携わった。会社を変わり、07年からはインドへ。ニューデリーの地下鉄工事に携わった後、バンガロールの工事に移った。いまは、所属するオリエンタルコンサルタンツ(本社・東京)が関わる、インド他都市での14年春からの大規模工事の準備中だ。

「日本が大好きですから、もし男性だったら海外には出ていません。トンネルが掘れて、英語が話せて、女性。そんな私にとって、インドのように大規模工事の経験が浅い国は、生き残るための場所なんです」(文中敬称略)

AERA 2013年12月30日-2014年1月6日号より抜粋