朝鮮総連中央本部(東京都千代田区)の土地・建物再競売を落札したのは正体不明のモンゴルの会社だった。背後に北朝鮮当局の影も見えるなか、「安倍官邸関与説」もささやかれる。
つめかけた報道陣や傍聴者らは息を潜め、入札結果が読み上げられるのを待っていた。10月17日、不動産の競売入札を扱う東京都目黒区の東京地裁民事執行センター2階の開札場。だが、午前11時に執行官の口から出たのは聞いたこともない企業名と、予想をはるかに上回る落札価格だった。
「アバール・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー(以下アバール社)、50億1千万円」
退席した報道陣は、アバール社がどこの国の企業かもわからず混乱した。事前には、入札参加者として某ホテルチェーンや新興宗教団体など10近い企業・団体の名が挙がっていたが、実際に入札したのは2者。次点に断トツの差をつけ落札したアバール社は「公安当局さえノーマーク」。同社はモンゴルに所在していた。
それにしても、なぜモンゴルの会社なのか。ある総連関係者は「こんどは50億円規模でやるらしい、との話が組織の一部で流れていた。北朝鮮当局が主導、モンゴルが協力した総連救済計画ではないか。旧共産圏のモンゴルと北朝鮮は友好関係にある。落札が成立すれば総連中央が賃貸借契約を結び、引き続きビルに留まる可能性が高い」と話す。
アバール社はウランバートルの登記情報に記載されているが、書かれた住所は実在しないという。だが朝鮮半島筋によると、記載された住所と同じ地区に、北朝鮮大使館(現在工事中で閉鎖中)と、いま大使館機能を果たしているマンションがあるのだ。「アバール社はペーパーカンパニー。北朝鮮主導のずさんな登記が行われた可能性がある」(同)という。
アッと驚く話もささやかれている。「安倍官邸関与説」がそれだ。目的は拉致被害者帰国を含む拉致問題の前進。
モンゴルでは昨秋に日朝実務者協議が行われたほか、今年3月には安倍晋三首相がモンゴルを訪問、4月には拉致問題対策本部の三谷秀史事務局長、7月には古屋圭司拉致問題担当相も訪れている。首相は9月末、来日したモンゴル大統領を私邸に招き会談している。
複数の情報関係者や事情通の話をまとめると、総連中央本部ビルに総連中央が居続けられるよう日本政府が協力、落札金拠出にも動いた可能性がある。モンゴルへのODAがらみの資金が取り沙汰される。アバール社は総連中央本部救済での、日本政府の存在を隠すために作られたダミーだというわけだ。それに対する北朝鮮からの見返りが、東京五輪招致実現への協力と、拉致問題の進展。
すでに、「数人の拉致被害者が近く帰ってくるようだ」(事情通)との話まである。
※AERA 2013年10月28日号