五輪招致のために、世界に向けて汚染水対策をアピールした安倍晋三首相。国費投入を決め、東電にさらなる廃炉を求め、安倍政権の対応は頼もしく見えるかもしれない。しかし、本当にそうなのか。
このタイミングで国が対策に乗り出した理由は、五輪招致がすべてではない。実は、別の“下心”があった。
「ずばり、それは銀行がこれまでに東電につぎ込んだ4兆円の融資を守るために国費を投入し、すべてを国民につけ回す、ということです」
と指摘するのは、元経産官僚の古賀茂明氏だ。「国が前面に出る」ということは、「銀行を守る」ということにほかならないというのである。
からくりは、こうだ。東電に融資している銀行団は、汚染水の流出を7月の参議院選前から問題視していた。というのも、東電はこの10月に地方金融機関中心に800億円の借り換えがあり、さらに12月にはメガバンク中心に2千億円の借り換えと、3千億円ともいわれる新規融資が予定されている。新規融資はもちろん、借り換えと言っても、当然、銀行内の審査基準をパスしなければならない。ところが、この汚染水問題は、これから先どれくらいの資金が必要になるかわからない。となると、東電は債務超過に陥る可能性が大きい。
「そんな企業に融資したら、それこそ特別背任です。現に、北関東の地域金融機関の一つが、借り換えに難色を示していると聞く。だからこそ、国という“保証人”が必要だったのです」(古賀氏)
東電を支えるために銀行団から継続して融資を引き出すには、東電が今後も絶対に破綻(はたん)しないという“国の確約”がいる。そのためには、「汚染水問題は税金で対処するから、東電の負担はそれほど増えない」ということを示す必要があった。そのタイミングが10月と12月。ちょうど、それに合わせて9月3日に「国費投入」が決定されたというわけだ。
「国費投入は、五輪招致という“錦の御旗”のもとで歓迎されましたが、実際は、震災直後に国が『東電は破綻させない』と決めたときからの既定路線なのです。私がまだ経産省にいた2011年の4~5月ごろ、東電を破綻処理すべきかどうかが議論されていました。当時、いちばんのポイントは、東電が事故の免責の主張をするかどうか。責任をかぶることを嫌がった政府は、当時の勝俣恒久会長を連日説得し、『東電は絶対に守る』という約束のもとで責任を認めさせたということです」(同前)
※AERA 2013年9月30日号