常温飲料専用の什器では、300mlほどの小型ボトルを中心に展開。水滴が発生しないため、持ち歩きに適したサイズを意識してのことだ。都内のローソンで(撮影/高井正彦)
常温飲料専用の什器では、300mlほどの小型ボトルを中心に展開。水滴が発生しないため、持ち歩きに適したサイズを意識してのことだ。都内のローソンで(撮影/高井正彦)

 酷暑の中で、冷え冷えのジュースをごくごく…は、もう古い?健康志向のユーザーを中心に、常温の飲み物が売り上げを伸ばしている。

「常温の飲みもの揃えてます」

 そんなキャッチコピーと一緒に、コンビニ内の商品棚にひっかけるようにして設置されたのが、新しいケースだ。大手コンビニチェーンのローソンでは、今年の5月から、「い・ろ・は・す」や「綾鷹」を揃えたコカ・コーラの什器を、全国約1万店舗に2セットずつ常設。さらに8月からは、お弁当やおにぎりなどを陳列した米飯ケース前に「エビアン」「お~いお茶緑茶」「リラックスジャスミンティー」などを並べた伊藤園の什器も追加した。最新の集計では、設置前に比べて、販売本数が約5割も増えたというから驚きだ。

 以前から常温飲料を求める声は少なからずあった。ローソン商品統括グループの中桐崇さんによれば、同社では昨年の秋頃からメーカーとの打ち合わせを開始。今年の2月に福岡の店舗で実験販売をしたところ、やはり5割もの販売本数の伸びを記録したため、この夏前から常設に踏み切ったという。

「いつも冷えたドリンクと常温のものを2本買いしています」

 そう語るのは、仕事柄外回りが多いという20代後半の男性。

「冷たいのはその場で飲み干して、常温はカバンの中へ。水滴で濡れないからいいんです」

 さらに、20代前半の女性は、

「常温の水を飲むと代謝がアップして疲れにくくなると聞いたので、実践しています。便秘やむくみも軽減されて快調!買ってすぐ飲めるから嬉しい」

 常温飲料販売開始のニュースを受けて、ツイッターにも「室温飲料、ブラボー!」「これこれ!待ってたよ!マジで嬉しいからさ!」と、歓迎の声が溢れている。

「現代の日本人は、本能的に体を温めたがっているのでは」

『「体を温める」と病気は必ず治る』の著書を持つ石原結實(ゆうみ)医師は、この現象の背景をこう分析する。医師によれば、日本人の体温はこの50年間で1度ほど下がっており、免疫力の低下が著しいという。原因は、筋力不足やストレス、生野菜・フルーツなどの南方産食物を一年中摂取する食生活などが考えられる。体温の低下に比例するように、心筋梗塞や脳梗塞、がんなどの罹患率は上昇。さらに、代謝が悪くなるため、肥満も増える。こうした冷えの弊害が、老年だけでなく若年層にまで広がっているのが現代なのだという。

 内臓が冷えてしまうと、胃腸・肝臓・腎臓などの働きが鈍り、体全体の機能が低下する。いわゆる「夏バテ」の理屈が広く知られるようになってから、冷たいものをガブ飲みするのに後ろめたさを覚える人も増えたようだ。一方、水分補給の大切さや健康志向の高まりが、「夏でも常温派」の増加につながった。

AERA  2013年9月23日号