自公の強さが取りざたされることの多かった参院選だが、中には飾らないスピーチと「音楽」で注目を集めた候補者がいた。
選挙戦中盤、東京・渋谷のハチ公前には千人を超える聴衆がつめかけていた。夕刻を過ぎ、人の渦は路上にあふれ出しそうだ。多くは「政治に無関心」とされる20代、30代。上の世代もいた。視線はステージに集中している。
壇上に三宅洋平(34)があがる。「緑の党」推薦候補で全国比例区に立候補した男は、若者たちの間で「知る人ぞ知る」ミュージシャンである。
「街宣とは思えない盛り上がり。これが実際の集票にどう結びつくのか、一種の社会実験とも捉えられる」(党広報)
参院選で三宅がやったこと、それは街宣の「音楽フェス化」だ。ステージを組み、ミュージシャン仲間も呼ぶ。「楽しむから当事者意識が生まれる」が三宅の持論で、若い世代に広がる政治忌避をフェスという装置で変えようとした。
三宅は、日本各地で行った「選挙フェス」でバンドの演奏にのせて歌い、「原発の廃炉」「戦争経済からの脱却」などを訴えた。よく通る声で、
「選挙に立候補するのは、おれがみんなより強いからじゃない」
「あなたと変わりないおれが、勇気を振り絞っただけ」
とも語りかける。
飾らないスピーチが、よそいきの選挙演説に辟易としていた若者世代をとらえた。「ヤフー みんなの政治」によると、三宅は一日平均千人超のツイッターフォロワーを獲得。全ての候補者の中で、選挙期間のフォロワー増加数ランク1位にもなった。
だが、ネット上で「政策が粗い」「政治の素人に何ができる」など、批判も浴びた。選挙フェスには「演奏が有権者に対する利益供与にあたるのでは」という指摘も。総務省選挙課は、「本来対価を徴収されるべき演奏を無償で提供しているなら、選挙違反にあたる」 とするが、なにをもって「対価を徴収されるべき演奏」かの定義はない。判断のしようがないのが現状ではないか。
街宣参加のハードルをカジュアルな形で下げた選挙活動は、今後の選挙で模倣する陣営も出てくるだろう。そう感じさせるほどのうねりが参院選で起きた。(文中敬称略)
※AERA 2013年7月22日号