まさにその通りです。人はみんな、生きるかなしみを抱えた孤独な旅人なのです。それさえわかっていれば、老いることもそんなに怖くありません。ただ、淡々と自分の道を歩んでいけばいいのです。そして、最後は虚空に向かって、力強く旅立っていくのだと私は思っています。
しかし、日常生活ではそのことを忘れがちです。だから、それを思い出すために、時折、旅情にひたることが大事になります。一人でぶらりとどこかに旅に出られればいいのですが、そんな時間がありません。
そこで私は地方に出張に出かけたときに、帰路の空港や駅のレストランで旅情にひたることにしています。お伴は生ビール2杯と焼酎のロック2杯。時間にして40分ほどです。
グラスを傾けながら、わが来し方行く末の日々に想いをめぐらしながら、83年の人生を俯瞰してみるのです。するとどうしたことか、あの日、この日の人生の一コマ一コマが、いとおしくなってきます。そして、生きるかなしみのなかから、明日への希望が漂い出してくるのです。
※週刊朝日 2020年1月3‐10日合併号