東洋大を拠点に指導を続けていますが、五輪のメダルを狙う主力はそれぞれ課題を抱えています。

 400メートル個人メドレーで五輪連覇を狙う萩野は調子を崩して19年4月の日本選手権を欠場。夏には試合に復帰して調子を戻しつつありますが、連覇するには死にものぐるい以上の練習が必要です。19年世界選手権女子400メートル個人メドレー銅メダルの大橋悠依、100メートル平泳ぎ4位の青木玲緒樹はともに五輪に出たことがないので、メンタルも含めたサポートが不可欠です。

 どの五輪も結果を出すのは大変でしたが、今回が一番大変かもしれません。それでもここでギブアップしてしまえば、私自身の負けという気がしています。

 北島の指導も日本代表ヘッドコーチの役割も、人のため選手のために力を尽くすわけですが、大切なのは自分のためにやる、というスタンスを持つことです。自分の思うようにやる。それが人のため公のためになるのが一番いい。

 困難な仕事に立ち向かう原動力というのは、足が震えるようなプレッシャーだったり、簡単に答えが出ない課題の克服だったりをいかに楽しめるか、ということだと思います。

 萩野が金を取ったリオ五輪のときに改めて強く思いました。こうじゃなきゃ、おもしろくない、と。よく選手たちが試合前に「楽しみたい」と言いますが、コーチだって一緒なんです。コーチも楽しくなきゃ、やってらんない(笑)。

 経験を重ねて、指導のやり方の引き出しは増えています。海外のコーチや選手との交流を通して、新しいトレーニングを学んでいます。金メダルという解答につながる式は必ずある。その式が導き出せれば、答えは見えてくるはずです。少しでもいいトレーニングを、いい経験を選手にさせたいし、自分もしたい。そんな意欲を強く持って、五輪イヤーに挑みます。

(構成/本誌・堀井正明)

週刊朝日  2020年1月3‐10日合併号

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平井伯昌

平井伯昌

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数

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