北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回はマスコミにもはびこる「性暴力」について。

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 フラワーデモをはじめてから、報道関係者に多く出会ってきた。その多くが女性で、新聞、テレビ問わず、何度も通い、被害者に話を聞き、性暴力問題を真正面から取り上げる記事や番組を発表している。

 そういう中で改めて気がつかされたのは報道の女性たちもまた、性暴力の被害と決して無縁ではない事実。権力を監視する立場にいても、職場での性差別に悔しい思いを噛みしめている現実だった。

 私自身、報道陣に交じり裁判傍聴をしていたとき、男性記者たちが夜になると女の美醜のランク付けで盛り上がるのに本当に驚いたことがある。「○○新聞の○○さんはモデルみたいだ。俺の一番」みたいなことを笑いながら話している。女たちはその場で、聞こえないふりで無表情に目を伏せる。

 性暴力の多くは、怒号や血が飛び交うような暴力のなかで行われるわけではない。それはなごやかな空気が装われ、からかうように、なだめるように行われる。私は同じことを話す被害者に何度も会った。

「もし私が殴られていたら周りの人はもっと真剣になってくれたのではないか」

 性被害の痛み、その暴力性を伝えるのは、なぜこんなに難しいのだろう。

 今年4月、長崎市幹部に性暴力被害を受けた女性が、市に謝罪と損害賠償を求める裁判を起こした。

 事件は2007年7月下旬に起きた。55年体制以降初の野党参議院議長が誕生するタイミングで、長崎平和祈念式典でインタビューを取れるかの瀬戸際だった。その取材のやりとりの際、記者は男性市幹部に深夜呼び出され性暴力を受けた。重大な式典を前に、すぐに警察に訴えることができなかった。

 3カ月後に新聞社がこの事件を報じた日、男性が「男女の関係だった」と書き残し自死した。長崎市は事実関係を徹底的に調査することなく終わらせ、記者は壮絶な誹謗中傷にさらされ、市を離れた。その後、日弁連に人権救済を申し立てたが、市は一貫して女性の訴えを無視し続けてきた。今回の提訴は、長年の長崎市の態度に決着をつけるものでもある。それでも先日の市議会でこのことを追及した女性議員の質問中に「被害者はどっちだ」と男性の声のヤジが飛んだ。

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