よめはんにはなにをどういっても負ける。
去年と一昨年のサイン会は大阪でした。場所は梅田の三番街の大手書店。一時間ほど前に行って、別室で二百冊ほどサインをしたのち、定刻に会場へ行くと、多くのひとが並んでいた。ありがたい。本を買ってもらった上に行列までしてもらうのだから。
そして、サイン会──。読者の名前を書き、わたしの名前を書きながら、ただ黙っているわけにもいかないから、話しかける。「どちらからいらっしゃいました」「○○です」「遠いところをありがとうございます。JRの新快速ですね。○○は魚市に行ったことがありますわ」──。
「珍しいお名前ですね」「田舎の親戚だけやと思います」「ほう、何人ぐらいいてはるんですか」──。
東京はそれほどでもないが、大阪のサイン会は話しかけられることが多い。
「疫病神シリーズの二宮は悠紀とつきあうんですか」「いや、悠紀は従妹やし、ないと思います」──。
サインが終わると立って握手をし、希望があれば並んで写真を撮る。怖い顔だが、にこやかに。
立ったり座ったりして、約一時間──。わたしはへろへろになり、サイン会は終了する。編集者と食事に行き、酒を飲んでよれよれになる。たまによめはんがいっしょのときは、「ピヨコちゃん、がんばったね」と褒めてくれるし、ちゃんと家に連れて帰ってくれるから、たいそう楽だ。
※週刊朝日 2019年11月29日号