第29回写真の町東川賞が5月10日発表された。海外作家賞にミンストレル・キュイク・チン・チェー、国内作家賞に川内倫子、新人作家賞に初沢亜利、特別作家賞に中藤毅彦、そして飛彈野数右衛門賞に山田實が決まった。
ミンストレル・キュイク・チン・チェーは、マレーシア社会での中華系家族や自身のアイデンティティーをテーマに制作を行っている。スナップショットや演出的なイメージで、家族や幼少時代を過ごした両親の家、自分の暮らす場所などを撮影。作品シリーズ「Mer.rily Mer.rily Mer.rily Mer.rily」や一連の活動が評価され、海外作家賞を受賞した。
キュイクはマレーシア北西部のパンタイ・レミスに中華系マレーシア人として生まれている。台湾留学後、フランスのアルル国立高等写真学校で修士を取得。現在はマレーシアの美術学校で教職についている。
川内倫子は、東京都写真美術館で開催された個展「照度 あめつち 影を見る」(12年)や、一連の作家活動が評価され、国内作家賞に選出。緻密に構成された展示の充実、海外での評価もふくめ、その動向と勢いが注目されるなかでの受賞だ。
新人作家賞には初沢亜利が選ばれた。メディアではほとんど紹介されない、北朝鮮の人々のくらしをとらえた『隣人。38度線の北』、東日本大震災の翌日から被災地に入り、その後一年間、ほぼ毎月通い、人々に向き合った『True Feeling―爪痕の記憶。2011.3.11~2012.3.11―』、という2つの写真集が評価された。
北海道に縁のある作家に贈られる特別作家賞には、中藤毅彦が選ばれた。中藤は東京に生まれ育ったが、父親の赴任先だった釧路に強い思い入れがあり、北海道での作品をまとめた展示「Sakuan. Matapaan-Hokkaido」(禅フォトギャラリー、13年)を開催(同タイトルの写真集も発表)。「Sakuan. Matapaan」はアイヌ語で「夏が来る、冬が来る」を意味する。中藤の写真から滲み出る北海道への共感が評価された。
飛彈野数右衛門賞は地域に貢献した作家に贈られる。受賞した山田實は、沖縄の写真界の草分け的存在。庶民の日常や街並みなどを丹念に記録、撮影してきた。一方では、本土と沖縄を繋ぐ重要な役割も担った。米軍統治下には、来沖した木村伊兵衛、林忠彦、東松照明などの身元引受人も勤めている。
「山田實展 人と時の往来」展(沖縄県立博物館・美術館、12年)。『山田實写真集 故郷は戦場だった』(未来社、12年)及び、郷土沖縄を長年にわたり撮影し続けてきた活動に対し賞が贈られた。
なお、2013年8月10日から9月4日まで、東川町文化ギャラリーで受賞作品の展示が行われる。授賞式とレセプションパーティーは8月10日、翌11日には受賞作家たちを囲みながらディスカッションなどが行われる予定。