中には億単位の借金を抱えてしまった人もいる。しかし、治療の最中に「これでやめる」と手を出したFXで億単位の利益を上げ、借金を返済してしまったという。ここに怖さがある。
「患者さんの口からよく聞かれるのは、『負けが続いているから、これは勝ちが近い』という言葉。冷静に考えればそんなことはないはずなのに、当事者は真剣にそう信じています」
ギャンブル依存症にも認知行動療法が有効だ。対話を重ねながら、次は勝てると思い込む認知のゆがみを見直し、ギャンブルをしない生活習慣を身につける。
パチンコを例にすれば、現金を持ち歩いているとやりたくなるので、所持金を制限したり、財布に入れるのは紙幣ではなく硬貨だけにしたりする。
60代の男性はここ最近、飲酒量が増えていると感じていた。現役時代はこれといった趣味もない仕事人間。会社でのストレスは晩酌で発散していた。定年退職後は家にいてもやることがなく、妻はパートに出ているため話し相手もいない。昼間からテレビを見ながら飲酒をするようになった。酔いが回る高揚感を求めて、酒を切らせば大雨が降ろうが強風が吹こうが、買いに出かけるようになっていた──。
最も知られている依存対象は、やはりアルコールだろう。万引きやギャンブルと同じで、寂しさやストレス、快楽のために依存してしまう。
原宿カウンセリングセンター(東京都渋谷区)所長で臨床心理士の信田さよ子さんが説明する。
「会社で立場が変わり困難があったときや、定年退職した後の生き方がうまく見つからなかったとき、親族間で相続争いが起きたとき。そういった人生に降りかかってくる様々なリスクが引き金になります」
最近の特徴として、女性が増えてきたことが挙げられるという。
「1990年代までは、アルコール依存症の男女比は9対1で、圧倒的に男性に多かったんです。が、最近は6人に1人が女性になってきています」
女性の潜在患者はもっといる、とも指摘する。