だが、国は「ダム依存体質」から脱却できないでいる。典型的なケースといえるのは、本県を流れる白川だ。上流にあたる阿蘇外輪山の切れ目に、洪水調整専用の立野ダムが建設されている。総事業費は917億円に上る。

 この立野ダムの必要性が揺らいでいるという。2012年の豪雨で、白川は越水し、下流域の熊本市は大きな被害を受けた。国は白川水系を河川激甚災害対策特別緊急事業(激特事業)に指定。堤防補強や河道改修事業などをしてきた。

 大熊氏が説明する。

「白川下流域の堤防を強化し、毎秒2千トンの流下能力しかなかった箇所を、毎秒3千トン流れるようにしたのです。16年に熊本地震が起きたため工事は1年間延びましたが、約605億円かけて18年に完成しています。一方、立野ダムの洪水調整能力は、200トンしかありません。下流域で毎秒1千トンも多く流れるようにしたのだから、もはやダムを建設する必要はなくなったはずです。熊本地震で地質的にも危険なことが明らかになりました。計画は見直されるだろうと思っていましたが、18年には本体工事が着工しました。国のダムへの執着は尋常ではありません」

 ダム反対運動に取り組む水源開発問題全国連絡会の遠藤保男・共同代表は、「ダム建設が優先されることで住民の命が危険にさらされている」と訴えている。

「堤防を強化してしまうと洪水が起きなくなり、ダムを造る口実がなくなってしまう。ダム計画が残っている河川では、堤防が未整備のところが目立ちます。18年7月の西日本豪雨では、愛媛県の肱川の二つのダムが緊急放流し、下流が氾濫しました。肱川支流にはおよそ30年前から山鳥坂(やまとさか)ダムが計画されていますが、地元住民が反対してなかなか着工できませんでした。国はこのダムを造るために、堤防強化を怠ってきたのではないか。ダムなんかやめて堤防を整備するよう各地の住民が訴えていますが、国は耳を貸そうとしません」

 ダムでは、「命は守れない」ことがはっきりしつつあるのだ。堤防の整備や避難計画など、行政の対応が遅れている分野はいろいろある。私たちは、自ら水害に備えつつ、行政の取り組みを監視していかなければならない。(本誌・亀井洋志、吉崎洋夫、池田正史、多田敏男)

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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