今年はいくつもの台風が日本を襲い、水害から私たちの命をどう守るかが問われた。
台風19号の上陸や、台風21号にともなう大雨では大規模な水害が発生。総務省消防庁によると、11月1日午後2時時点で死者・行方不明者は計100人、負傷者は465人。住宅の被害は全壊・半壊・一部破損1万3613棟、床上浸水3万3425棟となっている。いまなお厳しい避難生活を強いられている人も多数いる。
多くの川が氾濫(はんらん)し、堤防が決壊したことが被害を広げた。国土交通省によると、決壊したのは国管理河川で12カ所、都道府県管理河川で128カ所に上る。
堤防は「国民の生命と財産」を守るものなのに、十分整備されていなかった。治水事業関連予算はピークからほぼ半減している。
「コンクリートから人へ」のスローガンのもと民主党政権下で公共工事が抑制されたことを、批判する意見がネット上では根強い。だが、実際は、自民党が政権に復帰してからも治水事業関連予算の抑制傾向は続いている。
ネット上では、民主党政権下で一時建設中止が打ち出された八ツ場ダム(群馬県長野原町)を称賛する動きも広がった。台風19号で記録的な大雨となったのに、利根川の越水を回避することができたのは、八ツ場ダムのおかげだという主張だ。
国も八ツ場ダムの効果はあったとの立場だ。安倍晋三首相も10月16日の参議院予算委員会で、次のように述べた。
「八ツ場ダムは大変な財政的な負担もあった。これは後世に負担を残したのかといえば、財政に対して国民みんなで何世代にもわたって対応していかなければならないものだ。同時に、国民の後世の人たちの命を救うことにもなる」
総事業費が5千億円を超え“日本一高額なダム”といえる八ツ場ダム。行政のトップとしては、「命を救うためのもの」として、その有効性を強調するのは当然かもしれない。
しかし、これには、複数の専門家が疑問を示す。八ツ場ダムが本当に氾濫防止に機能したのか詳しい検証がないまま、有効性がことさら強調されているというのだ。
八ツ場ダムは台風19号の接近時に、たまたま試験貯水中で、想定より多くの水を蓄えることができた。これは運が良かっただけなのに、ダムで水害が防げると誤った考えが広まっているという。