作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は生理について。
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「タンポンって何ですか」
20歳の大学生に尋ねられ、私は文字通り絶句した。話がかみ合わないなとは思っていた。「今、一番オススメは月経カップ。これでタンポンすら不要!」と最新の生理用品事情を語っていたのだが、彼女が全く反応せず、それどころか怪訝(けげん)な顔を向けるのだ。そこで「もしかしてタンポンは使わない?」と尋ねたときの、まさかの質問返しだった。
タンポンッテナンデスカ。心の中で棒読みで復唱する。その場にいた私の友人(50代)も、あっけにとられていた。そして私たちは、地の底から這(は)うような太い声で彼女に尋ねたのだった。
「タンポン、知らないの」
私たちの驚きように彼女がおびえるのがわかった。
「も、もしかしたら私が無知なだけかも。それはどこで売ってるのですか?」
タンポンを売らないコンビニが増えているという。「でもタンポンないと泳げないよね?」と食い下がると彼女は「生理のときに泳ぐ?」と全身で固まるのだった。彼女の話では、水泳の授業と生理が重なると休むしかなく、そのため体育の単位を落とす女子が必ずいるとのこと。東京都生まれの20歳の現実だ。
あまりのことに驚き、すぐに会社の20代スタッフ3人に「タンポン知ってる?」と聞くと、皆「知ってるけど使わない」と言うのだった。しかも「生理を理由に体育を休むと、証拠見せろと言われ、血のついたナプキンを見せる学校があるというのをSNSで見た」という情報まで教えてもらい、私は石になった。
たぶん、昔の人のほうが、膣(ちつ)に綿を入れている。そもそも80年代のほうがタンポンの種類があったが、次第に縮小し、今やタンポンは生理用品市場の2%程度と言われている。テレビCMもないかもしれない。
それにしても、生理のときに何かを諦めることが前提だなんて、あまりに不自由じゃないか。どうして大人が教えてあげないのか。