黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
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※写真はイメージです (Getty Images)
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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は故・田辺聖子さんのお別れ会出席などについて。

*  *  *

 昼すぎ、原付バイクに乗って駅前の理髪店へ行き、千五百円の散髪をして家にもどると、ダイニングによめはんと見知らぬ女のひとがいた。向こうが頭をさげるから、わたしもさげる。

「はじめまして。A社のBと申します」

「あ、どうも……」なにものだろう。

「Bさんは三十分も待ってはったんやで」

 よめはんが怒る。そこでようやく、わたしは気づいた。その日、A社のひとがインタビューに来ることを。

「すんません。ごめんなさい。忘れてました」

「いつもこうなんです」よめはんも謝る。「いままでになんべん同じことがあったか。このひとはカレンダーに予定を書いても見なおさへんのです」

「いやいや、予定を書いた時点で完結してしまうんですかね」ひとごとのように、わたしはいう。「ひどいときはふたりとも外に出てたことがありますわ」

「ごめんなさいね。こんな大惚(ぼ)け爺(じい)さんで」

 大惚け爺さんはないやろ。せめて、うっかりおやじと呼んでくれ──。わたしは心のうちで抗議する。

 インタビューは小一時間で終わり、Bさんは帰っていった。よめはんはまじまじとわたしを見る。

「なんで忘れるん。いっつも、いっつも」

「しゃあないがな。ちゃんと帰ってきたんやから。ほら、頭もきれいやし」

「そういう問題? ちがうよね」

「ちがいます」

「わたしは三十分もお相手したんやで。コーヒー淹れて、お茶も出して」

「おっしゃるとおりです」

「コーヒー代は」

「お支払いします」

 散髪の釣りの五百円玉を渡すと、よめはんは勘弁してくれた──。

 翌週、田辺聖子さんのお別れの会に出席した。東京會舘、広い宴会場には二百五十人ほどの出席者がいた。田辺さんの担当だった編集者が多く、当時は駆け出しだったわたしには懐かしい顔ぶれがそろっていた。

「どうも、おひさしぶりです。お忙しそうで」

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