元駐スイス大使の村田光平さんは、こう主張する。

「東京五輪は福島事故隠しのために利用されています」

 村田さんは、地震大国の日本に原発をつくることは安全意識の欠如であると長く指摘してきた。17年前に書いた『原子力と日本病』(朝日新聞出版)では、「3. 11」を予言するかのように「『原発震災』という恐るべき事態が万一現出すれば、事故処理は絶望的」と記している。

「現在も1日に百数十トンという量の汚染水が発生しています。原子力安全神話は崩壊しています」

 実際に、事故直後に発令された原子力緊急事態宣言は今も解除されていない。

「原発だけでなく猛暑の問題などもある。私は、東京五輪は開催されないといまだに100%信じています」

 村田さんによると、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)ドイツ支部がドイツ・オリンピックスポーツ連盟に東京五輪の危険性を訴えるなど、海外でも復興を疑問視する声が上がる。

 それでも五輪は開催されるだろう。組織委は本誌の取材にこう回答した。

「東京2020大会が復興の後押しとなるよう、国や東京都をはじめ関係機関と連携して取り組みを進めながら、スポーツの力で被災地の方々の『心の復興』にも貢献できるようにアクションを展開します」

 五輪では宮城でサッカーの一部、福島で野球・ソフトボールの一部が実施される。また、来年3月にギリシャで採火される聖火は宮城、岩手、福島の順に復興の火として展示される。その後、福島のスポーツ施設「Jヴィレッジ」を出発点にして全国を回る聖火リレーが始まる。

 ただ、被災地には除染土などが入った黒い袋(フレコンバッグ)が残っている。前出の山本さんは言う。

「福島各地に置かれた、行き場のない、処理に困っている黒い袋という本当の現実は、祝賀に水を差すものとして、聖火リレー中、おそらくテレビには映らないでしょう」

(本誌・今井良、大崎百紀)

週刊朝日  2019年9月20日号より抜粋