“流通業界の風雲児”とも呼ばれる、ファミリーマート代表取締役社長・澤田貴司さん。伊藤忠を経て、ユニクロでフリースを大ヒットさせ、投資ファンドと企業支援会社を起業……と華々しい経歴の持ち主です。その素顔に作家の林真理子さんが迫ります。
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林:社長の経歴を拝見すると、波瀾万丈ですよね。伊藤忠商事のご出身なんですね。
澤田 そうなんです。
林:社長は私より3歳年下ですけど、当時はああいう超一流企業に定年までいることをよしとして、「何もわざわざ冒険しなくても」という空気があったと思うんです。
澤田:当時はそうでしたけど、小売業に目覚めちゃったんですよね。伊藤忠は、いろんな事業をしている、でっかい会社ですが、企業の時価総額、いわゆる企業の価値を見れば、当時はセブン−イレブンさんのほうが高かったんです。
林:そうなんですか。
澤田:小売業は店舗を核に、非常に細かい仕事をして、すごい収益をあげて、猛スピードで成長している。一方、総合商社はお金もネットワークもあるし、優秀な人材もいる。そこで思ったんです。伊藤忠が小売業をやればすごい会社ができるんじゃないかと。
林:なるほど。
澤田:それを伊藤忠の社内で提案して、「やらせろ」と言って暴れたんです。でも結局、僕の提案は通らなかったので、「人生は一回だ。イトーヨーカ堂さんとかセブン−イレブンさんみたいな会社をつくりたい」と本気で思って、伊藤忠をやめちゃったんです。
林:ほぉ~。私は小商いの家に生まれて、「結婚するならサラリーマン。自分が店先に立つなんて絶対にイヤ」というのが体にしみついていたので、小売が楽しいというのは、ちょっと理解できないんです。
澤田:伊藤忠時代にイトーヨーカ堂さんのプロジェクトに携わって、創業者である伊藤雅俊名誉会長と現場を回る機会が何回かあったんですけど、本当に楽しそうなんです。売り場を見てきれいだと店長さんを褒めたり、汚いと怒ったり、そういう姿がすごく素敵で。商社って日本経済、世界経済規模で語るんだけど、自分がやっていることがどうつながっているか、ぜんぜん実感がなかったんです。BtoB(企業を対象にして行う事業や商取引)がほとんどで、実際のユーザーが見えていなかった。でも、伊藤名誉会長といろんな店を歩くと、お客さまに喜んでもらうために、現場に入り込んでいろいろ一緒に考えたりする姿がめっちゃカッコいいなと思ったんです。