松田聖子の「声だけ聞かせて」は、スタジオに入ってから、歌詞にはなかった台詞を囁いてもらったりした。その曲も今回のセルフカバーで歌っている。

 どのシンガーのケースも、作品を依頼されてから、それぞれの個性に合わせてイメージをふくらませていく。

「私の持つ音楽性の中で何を必要とされているのかを考えて、曲や詞を書きます。薬師丸ひろ子さんの『トライアングル』や『元気を出して』のときも、岡田有希子さんの『恋、はじめまして』のときもそうでした。自分が書く必然性を感じてもらえる作品にしなくてはいけませんから。唯一、『けんかをやめて』は、テレビで河合奈保子さんが歌う姿を見て、彼女に8分の6拍子のロッカバラードを歌ってもらえたらなあ、と思いながら前もってつくっていた曲です。すると、ほどなく奈保子さんのスタッフから実際にオファーがやってきたのは、まったく偶然の出来事でした」

 家事や子育てをする生活では、音楽一辺倒では得られないインプットも与えてもらえた。それによって、描く作品のバリエーションが豊かにもなっていく。

「保護者会で親しくなった同世代のお母さんたちとの会話から、新しいテーマと出合ったり、発想が生まれたりもしました」

『Turntable』は、シンガーやソングライターとしてだけではなく、音楽を愛するリスナーとしての竹内のキャリアも感じられる。

「3枚目のディスク『Premium Covers』は私の自由なクラブ活動と思って楽しんでください(笑)。1984年の『VARIETY』からはずっと、達郎が私の音楽をアレンジ、プロデュースしていますが、今回の『Premium Covers』は、私が昔から好きだった洋楽を、それぞれのジャンルに合わせたメンバーや、長年の音楽仲間と共にレコーディングしています」

 全25曲の前半には、ずらり12曲、ビートルズ・ナンバーが並ぶ。

「出雲にいた中学生時代に、ビートルズの映画『HELP! 4人はアイドル』を観たときの興奮は今も忘れられません。一日に何度も続けて観たほどです。特に『YOU’RE GOING TO LOSE THAT GIRL』(ビートルズ盤の邦題は『恋のアドバイス』)のレコーディングのシーンで、ジョンのリードヴォーカルをポールとジョージが追っかけてコーラスを入れるところが最高に好きでした。その曲を今回カバーできたことはうれしかったですね」

 演奏は杉真理(まさみち)の率いるバンド、BOX。

「杉さんは大学の音楽サークルの先輩で、私は彼のバンドのメンバーでした。還暦を過ぎても、一緒に音楽がやれていることに心から感謝です。BOXは、ビートルズ・ナンバーをほぼオリジナルに近い状態で演奏できるので、ビートルズとまったく同じキーでリードヴォーカルが女声、というユニークさを楽しんでもらえると思います」

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