「音楽への理解は少しずつ変化してきたかもしれません。若いころは、何か新しいことをやりたい、自分の殻を破りたいという思いが強く、そういう気持ちからつくったダンサブルな曲が『プラスティック・ラブ』でした」
ファンに強く支持される竹内の代表曲「プラスティック・ラブ」はリリースから約35年を経て、日本の80年代シティ・ポップに注目する海外の若者たちの間で人気となっており、動画サイトでは2600万回以上のアクセスを記録している。
「日本でのポピュラリティからいえば『駅』のほうがより有名ですし、大衆音楽として多くのリスナーに聴かれているわけです。実は『駅』がこんなに支持されるとは、曲を書いたときには思っていませんでした」
ならば、世の中のニーズにもっと応えてみよう、という発想が次に生まれた。
「『駅』が多くの支持を得たことによって、マイナーコードの『シングル・アゲイン』や『告白』のような、それまでの私にはないテイストの楽曲もつくることができました」
失った恋を歌うこの2曲は、どちらもヒットした。
「ポップミュージックとは、たくさんの人に届いてこそ成立するものなので、常に自分を俯瞰する客観性は必要だとも思っています。世の中から求められる音楽と自分がつくりたい音楽、両者のバランスが大切ではないでしょうか」
そんな竹内の音楽制作には、大きなアドバンテージがある。アレンジャー、プロデューサー、演奏者としての山下達郎の存在だ。
「彼にプロデュースしてもらうことで、書いた作品が私のイメージどおり、あるいはそれ以上になっていきます。自分の頭の中で鳴っている音のイメージを素直に伝えることができ、それを的確にキャッチする彼が、具体的に実現していくというスタイルです。そこが彼との共同作業のいちばん良いところですね」
さらに、山下だからこそ生まれる抜群のアドバイスもある。
「時に思いもよらぬ提案をしてくれたり、シンプルな私の弾き語りのデモテープから作品をどんどん進化させていく。『Turntable』では、『夢の続き』のデジタルなサウンドやたたみかけるようなコーラス、『幸せの探し方』の導入部のパーカッションや全体のリズムパターンは彼だからこその発想でした」
山下となら思い切り意見を戦わせることもできる。
「私はとても細かく、いろいろとリクエストをすることが多いので、かなりうるさがられているかもしれませんけれど(笑)。でも、彼自身の作品ではやりそうもないアプローチをすることが、もしかすると、彼の音楽に役に立つこともあるんじゃないでしょうか。今でも、彼の時間を奪うことに申し訳なさは、ちょっと感じたりもしますね。達郎自身の音楽制作やライヴに使えるはずだった時間を私に分けてくれていることに、とても感謝しています」
(神舘和典)
※週刊朝日 2019年9月13日号