それに、C型肝炎が完治したのも感動的でした。あんなに長年苦しんだのに、薬も医療も進歩が目覚ましい。あんな世界に身を置いたら、どんなにかエキサイティングだったろうな、と思います。
さんざん医者の役もやってきたのに、いざ患者の身になると医療という仕事の大きさが身にしみました。
もちろん役者の仕事だって、きっと誰かの役に立ってる。でも、芝居は戦争でも始まったら真っ先になくなっちゃうでしょう。いや、だからこそ、とても大事なものなのだと思います。
もう一つ、大きな転機になったのは、尊敬する小池朝雄さんのあまりにも早い死ですね。「核」を失った集団は一時、不安定になりました。ちょうどそのころからテレビの仕事が増えたんです。
テレビには若いころからちょくちょく出させてもらったんですが、舞台が始まると地方巡業がある。特に連続ドラマは長期間にわたるから、どうしても舞台の日程とぶつかってしまう。それにテレビの世界は、ちょっと離れるとすぐに忘れられちゃうんです。
なので、お恥ずかしい話ですが、「踊る大捜査線」(フジテレビ系)の神田総一朗署長役が当たったときに、覚悟を決めたんです。舞台とテレビ、中途半端なことをしてないで、いっぺんテレビにかけてみよう、とね。おかげでひどく忙しい思いもしたし、結果、体も壊しましたけどね。
――テレビの世界に軸足を移した結果、世界は一変した。CM撮影、バラエティーやクイズ番組への出演。演劇の世界では知りえなかった、さまざまな人たちとつながりを持つことになった。
刺激的な日々が始まりました。アイドルやタレント、お笑い芸人。演劇の世界がいかに狭いものか。一歩外へ出れば、そこにはあまたの才能があふれている。ドラマで対峙(たいじ)すると「え? どうしてそんな芝居するの?」って面食らうこともありました。
これまでの経験ではとても理解できないんだけど、それはそれで見事に成立してる。みんなそれぞれに出自も生き方も違うけれど、それをそのまんま感性としてぶつけてくるから、頭で考えても太刀打ちできないんです。実に勉強になりましたね。