嫁から「お義母さんと私たちの生活とどっちが大切なの?」と迫られたら、息子は妻子を選ばざるを得ない。武内さんは、「万一子どもに裏切られても、奥さんが安心して暮らしていけるようにしておくことが大事」とし、改正相続法を活用して妻に自宅を譲渡することは有効な対策になると話す。
夫婦間で自宅不動産の贈与や遺贈があった場合、原則として遺産の先渡し(特別受益)として取得した自宅は妻の相続財産に加算されていた。しかし、7月から施行された改正で「結婚20年以上が経過した夫婦間の自宅不動産の贈与・遺贈は原則として特別受益には当たらない」ことになり、自宅は妻の相続財産から切り離される。妻はその分、預貯金などを多く受け取れる。
■ケース2 良かれと思った遺言で妻が息子と断絶
長野県の女性(76)と長男(50)との関係が悪化した原因は、亡夫の死後に発見された遺言書だったという。
「車で数分のところに住む長男は、用がなくても毎日顔を見せに来るような心根のやさしい子でした。なのに、遺言が見つかってから、人が変わったようになってしまって……」
遺言書には「妻に全財産を相続させる」と書いてあった。当初は長男も「お父さんの遺志だから」と納得した様子だったが、数日後に長女(48)を伴ってやってきて「お母さん、あの遺言はやっぱりおかしいと思う」と言いだしたのだ。
「長男はもともとパパっ子でした。父親が継嗣の自分をむげにするはずはないという思い込みがあって、私が夫に入れ知恵をしたのではないかと勘繰ったのでしょう。私だって、あの遺言は寝耳に水だったのに……」
長女の取りなしもあって最後は長男も矛を収め、遺言書どおりに遺産分割を行った。しかし、七回忌が過ぎた今も、母と息子の間には大きなわだかまりが残ったままだ。
自筆証書遺言は一部(財産目録)のパソコン作成が可能になり、来年7月には法務局での保管の受け付けも始まる。これを機にと遺言書の作成を検討している方もいるはずだ。