「そういう自分の中に残る言葉を心に刻み、形にして残しているのがすごいなあと思いました」(高橋さん)
異世代ホームシェアを有意義に過ごすコツはあるのだろうか。宮本さんはこう語る。
「価値観の違いを、違っていい、そういう考え方もあるのかと思えること」
それまでまったくの他人だった学生とシニアが、いきなり共同生活を始めるのだ。ちょっとしたズレはあちこちに出てくる。
4月、高橋さんが入居する日には「10時ごろ事件」があった。
「10時ごろ家に着きますとメールにあったのに、10時20分になっても来ない。しびれを切らして電話しました」と宮本さん。
電車に乗っていた高橋さんはいったんメールを返信。10時半ごろ電話を入れると、「あなたが10時ごろと言うから待っていたのに」と、お叱りを受けたという。
「実は私、『10時ごろ』というのは10時から11時の間だと思い込んでいました」と高橋さん。なぜ宮本さんは怒っているのだろう?と思いつつ「○時ごろ」をスマホで検索すると、「○時の5分前後」と出てきた。
「そうやってネットで調べて、自分の常識が世間一般とはズレていたと、修正できるのが高橋君のいいところです」と宮本さんは笑う。
以前ならこんなことがあったらすぐカミナリを落としていたが、今は変わったと宮本さんは笑う。
「たとえば電気がつけっぱなしになっていても、つけっぱなしはダメと頭ごなしには言わなくなりました」
まずは「電気がつけっぱなしだった」というありのままの状況を伝え、相手の反応や反省を待つようになったという。こうした接し方は高橋さんにも伝わっているようだ。
「すぐ怒ってどなるような、想像していたおじいちゃんとは違っていた。若い世代に理解のある人だと思います」と、共同生活の感想を語っていた。
「考え方の違いを理解しようとする、そういうのもありだなと思う」という姿勢が、学生とシニアの助け合いだけでなく、相互の学び合いにつながるのだろう。
ここまで他人とのシェア生活、3形態を紹介してきた。読者の皆さんが惹かれるようなスタイルはあっただろうか。
人生100年時代で、シニア生活は長く続く。その間、いずれかにスタイルを固定する必要もないだろう。比較的若いうちは異世代ホームシェアやクロスコート向ケ丘のような住まい方をして、より高齢になったらグループリビングに移るといったパターンも考えられる。まずは自分がどんな暮らし方をしたいのか、じっくり考えてみるべきだろう。(五嶋正風)
※「よ」の字はにんべんに予
※2「えい」の字は金へんに英
※週刊朝日 2019年6月21日号