ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回のテーマは「高齢者講習で脱輪 おばさんと連帯感」。
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運転免許の高齢者講習に行った。講習料は二時間で五千百円。DVD等で交通ルールや安全運転に関する知識を再確認し、指導員から運転に関する質問を受けながら講義を聴くという。
実は、この講習の案内は半年前に来ていた。あほくさいと思ってほったらかしにしていたら、いつのまにやら誕生日の半月前になっていた。で、近くの自動車教習所に電話したら、予約がいっぱいで、受講できるのは三カ月先だった。おいおい、と思いつつ、少し遠い教習所に電話したが、そこもいっぱいだった。免許証の有効期限は誕生日の一カ月後だが、少しあせった。運輸支局に電話をして訊くと、自宅から遠い堺の自動車教習所に空きがあるといわれた。
あとで知ったが、団塊の世代がばりばりの高齢者になり、どこの教習所も押すな押すなの“道頓堀インバウンドバブル”並みの活況を呈していたのだった。これから七十歳を迎えようというひとは早めに予約をとることをお勧めします。
──そんなわけで、講習の日がきた。講師は教習所の指導員だから対応がソフトでえらぶったところがない(交通安全協会の講師は警察官の天下りが多いから態度がでかい。もしくはまるでヤル気がない)。二十人ほどの受講者は胸に大きな名札をさげて会議室の椅子に座り、DVDを見たあと、指導員が質問をしたりする。「黒川さんはいつも制限速度で走りますか」と訊かれて、「もちろん、徹底遵守です」と嘘をついたら、「交通は流れですから、あまりに遅いと事故の原因になります」と、正論をいわれた。さすが天下りでないセンセイはリアリティーがある。