西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。死ぬまでボケない「健脳」養生法を説く。今回のテーマは「もののあわれ」。
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【ポイント】
(1)もののあわれとは深く心に感じること
(2)「あわれ」は「ときめき」を表現する言葉
(3)もののあわれを感じる心を深めていきたい
「生きるかなしみ」については以前書きましたが(2018年6月29日号)、このかなしみに似たものに「もののあわれ」があります。
もののあわれといえば本居宣長です。広辞苑では、「平安時代の文学及びそれを生んだ貴族生活の中心をなす理念。本居宣長が『源氏物語』を通して指摘」と説明されています。
本居宣長は賀茂真淵の弟子で、江戸時代の代表的な国学者です。国学は古事記や日本書紀、万葉集などの古典を研究して、日本固有の文化や精神を明らかにしようとする学問です。ちなみに私の病院の医療法人名である「直心会」は、賀茂真淵の「つらぬくに、高く直き心をもてす。かつ、その高き中にみやびあり。直き中にををしきこころはあるなり」(『にひまなび』より)という言葉から拝借しました。
国学が求めるところの漢心(からごごろ)より大和心(やまとごころ)というのはいいですね。いま風に言えば、西欧文化よりも日本文化のよさを見直そうということでしょうか。医者になってしばらく、私は西洋医学にどっぷりつかっていただけに、その重要さを切実に感じます。
そこでもののあわれです。かなしみの感情に近いのかと思っていたのですが、少し違うことを東大名誉教授、竹内整一さんの著書『「かなしみ」の哲学』(NHKブックス)を読んで知りました。
竹内さんは私が「生きるかなしみ」について講演をしたときに声をかけてくださった方です。
竹内さんによれば、もののあわれとは深く心に感じることだというのです。本居宣長は、きれいに咲いている花や清らかな月を見たときに、「ああ、きれいだな」と心が動く、それこそが「あわれ」だと言っているのです。