作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。アダルトショップでの商談で目の当たりにした日本の現実に落胆する。
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取引をしているドイツのセックスグッズメーカーの社員が来日したので、一緒に関西のアダルトショップに商談に行った。ビル型巨大店舗で、各フロアごとにテーマがある今時のアダルト店だ。男性向けトーイに力を入れたいとのドイツ人の意向で、「男性向けフロア」を案内してもらった。
男性向けフロアといえば、デパートなら黒や茶の世界。だがアダルト界における男性向けフロアとは、強烈なパステルカラーが支配する世界である。ピンク、イエロー、水色、ピンクピンクピンク……鮮やかな彩りのパッケージには決まって二次元の幼女や制服姿の子どもがはぁはぁしている。そんなのが無数に陳列されている「男性向けフロア」の雰囲気や色使いは、子ども向けオモチャ店と変わらないかもしれない。フロアの隅には人形コーナーがあって、着せ替え用の服も売られていた。一見普通の人形のようにも見えるが、体は筒状である。
ふわーと気分が遠くなり、私は思わず口走っていた。……すみません、リアルな女性はどこ……営業のスタッフ(30代女性)は「北原さんが具合悪くなるんじゃないかと心配していました」と言い、私を「リアル女性の写真が印刷されているオナニーグッズ」のコーナーにつれていってくれた。そこにはAV女優がパッケージになった商品が数個、並んでいた。いや、リアルって、そういう意味じゃないから、と思いながらも、二次元ロリコンに比べ種類の少なさに驚くと、「売れないです。女優好きのマニアしか買いません」と教えてくれた。マニア、の意味がわからなくなる。二次元ロリコンは、もう“マニア”と呼ばないのか。
ドイツ人は私が絶句する様子を横目に、質問をはじめた。20代の女性で、アダルト産業は5年目だという。日本の市場を調査するのが彼女の仕事だ。
「どのようなパッケージが男性に受けますか?」
スタッフが応える。
「見ての通り、オシャレじゃなければないほど、いいです」
「OK」
いや、オーケーじゃねーよ!と心の中で叫ぶ。無法であればあるほどそれが「リアルな欲望」だと思ってしまうような日本の性文化を改めて突きつけられながら、もうコレ(二次元ロリコン)が日本の性産業の稼ぎ頭になったことに改めて言葉を失う。
ちなみにドイツでは、女児アニメのパッケージはあり得ないとのこと。それを「文化の違い」として尊重するべきなのか彼女が推し量っているようだったので「批判していいよ!」と私は言い、営業のスタッフも「全く日本の男は」とブツブツ言い出し、そして私たちはなんともいえないため息一つを、揃ってはき出したのだった。
とはいえ、20年前だったら、この場に女性は私だけだったな、と思う。性産業にも「やりたいこと」を抱え入ってくる女性が増えた。そんな女性たちの「これはおかしい」という声が、現実を変えていけるのかもしれない。同じ色のため息をはきつつ、やっぱり未来の希望は、そんな女性の思いから始まるのだと思う。
※週刊朝日 2019年5月17日号